日比谷高校のススメ

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【数学小話】有理数がどれくらい詰まっているかを見る

実数の数直線上にどれくらい有理数が存在するかを考えてみます。言い方を変えれば、有理数はどれくらいぎっしりと詰まっているかを調べてみます。

有理数がぎっしりと詰まっていること、大学以降の数学では有理数の稠密性といいますが、今回はこの性質をいくつかの問題を解きながら体感してみましょう。

 

 

アルキメデスの性質

アルキメデスの性質とは、実数の持つ性質の1つを指すものです。文献によってはアルキメデスの原則などと呼ばれることもあります。

物理における浮力の性質を指すものにアルキメデスの原理がありますが、これとは別のものです。

アルキメデスの性質
任意の正の実数a,bに対してna>bとなる自然数nが存在する。

この性質は考えてみればごく当たり前に思えるでしょう。この性質の言いたいことは、(0より大きい)どんなに小さな実数も、何倍かすれば好きな数より大きく出来る、ということです。

√2だろうが、0.0000000000000001だろうが、何倍かすればいずれ999より大きくなります。つまりこういうことを主張しているのです。

この具体例を見れば「なんだそんなことか」と思うでしょうが、証明は大学数学レベルで非常に難しいです。(よって省略します)ちなみに証明は背理法を用います。当たり前なことほど証明が難しいというのは数学にはよくあることです。

さて、上記のアルキメデスの性質のb=1の場合をこれから使うことにするので、b=1として少し言い換えたものを性質①と名付けておきます。

性質①
a>0ならばna>1となる自然数nが存在する。

0より大きければ(どれだけ小さくても)何倍かすれば1より大きくなる、ということです。もちろん1倍の時点で(つまりaがそもそも)1より大きい可能性もありますが。

さて、もう1つ準備をします。

 

整数部分

中3の数学で整数部分と小数部分というものが登場したかと思います。

実数xに対して、xを超えない最大の整数を、xの整数部分と呼ぶ。

 34.56の整数部分は34で、√5の整数部分は2です。

整数部分は主に高校以上で、このように書かれることもあります。

実数xに対し、n\leqq x<n+1を満たす整数nを、xの整数部分という。

さて、この整数部分ですが、どんな実数にたいしても、必ず整数部分が1つに決まることはとても重要です。(これも証明は大学レベル) 

 

これで下準備は以上です。

 

 

有理数に隙間はあるか

さて、実数の数直線を考えたとき、0,3.14,\frac{123}{456},-\frac{3}{5}など、有理数の点はいくらでも見つかります。では、ある有理数の次に大きい有理数は見つかるでしょうか?言い換えると、こうなります。

疑問
数直線上で、この点とこの点の間には有理数は1つもない、というような2つの有理数は存在するのか?

数学の問題っぽく書けば、「異なる有理数p,q\ (p<q)で、p<r<qを満たす有理数rが存在しないようなものは存在するか」となります。

さて、落ち着いて考えればこれは簡単に分かるでしょう。答えはnoですね。証明は背理法で簡単に書けます。要するに\frac{p+q}{2}を考えれば常に間の有理数が見つかるわけですから。

よって、どんなに近い2つの有理数にも、その間にまだ有理数が存在することが示されました。どんな有理数にも、いくらでも近い有理数がとれる、とも言えます。(このいくらでも、というのが重要で、これが最も近い有理数だ!という数がとれない、ということを意味しているのです。\frac{p+q}{2}を考えてください)

さて、有理数p,qを考えましたが、この2数を実数に変えても同様の主張が成り立ちます。すなわち、どんな異なる2つの実数を持ってきても、その間に有理数が見つかるのです。このことを有理数は実数において稠密であると言います。これが有理数の稠密性と呼ばれるものです。

有理数の稠密性
任意の実数x,y\ (x<y)に対してx<r<yを満たす有理数rが存在する。

では証明してみましょう。

(証明)

x<yy-x>0と書け、ここで性質①を用いれば、
n(y-x)>1\dots②
を満たす自然数nが存在する。②を変形すれば、
nx+1<ny\dots③
ここで、nx+1の整数部分をmとすれば、
m\leqq nx+1<m+1\dots④
が成り立つ。この不等式の右側nx+1<m+1の両側から1引いて、
nx<m
となるから、④の左側と合わせて、
nx<m\leqq nx+1
③より
nx<m\leqq nx+1<ny
すなわち
nx<m<ny
よって
x<\frac{m}{n}<y

従って、\frac{m}{n}が求める有理数である。

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絵にすると、このようになります。xとyがいくら近くても、nを見つけてnxとnyの差が1より大きくできます。するとnxとnx+1の間に(差が1以上開いているから)整数mが1つ見つかります。するとnx<m<nyとなってx<\frac{m}{n}<yとなるわけです。
これが証明でした。大学レベルでやや難しかったですね。

これで有理数の稠密性、つまり実数のなかに有理数がぎっちり詰まっていることがよく分かったかと思います。

 

 

発展

実は、このxとyの間に有理数がいくらでも見つかる(無限個存在する)ことも証明できます。証明は難しいですが、エッセンスは今までの内容に散らばっているのでぜひ考えてみて下さい。

先ほどの証明を改めて見れば、アルキメデスの性質がとても重要な役割を果たすことが分かります、実はアルキメデスの性質を使えばこのようなことも言えます。
・√2より小さい有理数を考えたとき、その中で最大のものを取り出すことは出来ない

さて、実数には有理数がぎっしりと詰まっていることが分かりましたが、無理数もぎっしりと詰まっていることが証明出来ます。実は、実数において有理数より無理数の方が"多い"ことも証明できます。 

 

今回はここまで。

 

written by k

 

中学生でも解ける大学入試数学77★★ 2020年東大

今年の東大文系から、場合の数の問題です。

 

問題
★★

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8本の直線
x=1,x=2,x=3,x=4,y=1,y=2,y=3,y=4
がある。これらの直線の16個の交点から5個を選ぶことを考える。

次の条件を満たす5個の点の選び方は何通りか。

(1) 上の8本の直線のうち、選んだ点を1個も含まないものがちょうど2本ある。
(2) 上の8本の直線は、いずれも選んだ点を少なくとも1個む。

 

  

 

ヒント、着眼点

問題文の意味、きちんと理解できていますか?

(1) 8本の直線のうち、選んだ点を1個も含まないものがちょうど2本ある。
(2) 8本の直線は、いずれも選んだ点を少なくとも1個む。

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ここに5個の点を選んだ例を3つ用意しました。一番左の例は(1)を満たし、一番右の例は(2)を満たしています。真ん中の例は点を1個も含まない直線が1本なのでどちらでもありません。

この例だけでなく、(1)の例はこんなものやあんなものもある、といったことが脳内で即座に例を作ることができますか?場合の数の問題は何よりも、しっかり状況を理解することから始めるのが重要です。

数学の問題は問題文を正しく読んで理解するだけの国語力も必要なのです。

 

 

 

 

以下、解答

 

 

 

 

 


解答

(1) 1824通り

(2) 432通り

 

 

 


解説

(1)「上の8本の直線のうち、選んだ点を1個も含まないものがちょうど2本ある」

 

選んだ点を含まない2本の直線が2本とも縦線、2本とも横線、縦線と横線1本ずつで場合分けします。(正確には縦線、横線といわず、y軸と平行な直線、x軸と平行な直線などと言ったほうが良いが、めんどうなのでこのままで進める)

①1つも点がない2本の直線がどちらも縦線のとき

点が1つもない2本の直線の選び方は4C2=6通り

仮にx=3とx=4が点が1つもない直線とする。そのときに何通りあるか数えて、6倍すればよい。

残りのx=1,x=2上に5個の点を選ぶことになるが、どの横線にも少なくとも1つ点をとる必要があり、横線の数が4に対し点が5個だから、必ずどれか1つの横線に点を2つとることになる。その横線の選び方は4通り

その横棒が仮にy=1とすると、y=2,y=3,y=4上に点を1つずつとることになり、それは2×2×2=8通り

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よって全部で6×4×8=192通り

 

②1つも点がない2本の直線がどちらも横線のとき

縦線と横線の役割が逆になっただけで、全く①と同じように求めることが出来るので、192通り

 

③1つも点がない2本の直線が縦線と横線のとき

その縦線と横線の選び方は4×4=16通り

仮にx=4とy=4がその直線とする。このとき何通りかを求めて16倍すればよい。

5個の点を、9個の点から選ぶことになる。総数は9C5=126通り

ここで5個の点の選び方によっては、1つも点がない直線が新たに出来てしまうこともある。そうなってしまう場合を数えて126から引く。

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x=1,x=2,x=3,y=1,y=2,y=3のうち新たに出来る点がない直線を1つ選ぶのは6通り。これで9個の点のうち選ばれない点が3つ確定する。

選ばれない点を残り6つから1つ選べば、選ぶ5点が確定するので、6×6=36通り

よって126-36=90が、x=4とy=4が点がない直線としたときの5個の点の選びかたである。したがって全部で90×16=1440通り

①、②、③を足せば、答えは192+192+1440=1824通り

 

 

 

(2)「上の8本の直線は、いずれも選んだ点を少なくとも1個む」

 5個の点が条件を満たすとき、4本の横線のうち1本には点が2つあり、のこり3本には点が1つある。(これは縦線についても同じことが言える)

点が2つある横線の選び方は4通り

その横線が仮にy=1とする。y=1上の2点の選び方は4C2=6通り

その2点を仮に(x=1とy=1の交点)と(x=2とy=1の交点)とする。のこり3点はy=2,y=3,y=4上にとることになり、これら3点からx=3,x=4上に少なくとも1つずつ選ぶ必要がある。

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3つともx=3,x=4上から選ぶとき、2×2×2-2=6通り(引いた2通りは全てx=3上の点を選んだ場合と全てx=4上の点を選んだ場合)

x=3上に1つ、x=4上に1つ、x=1かx=2上に1つ選ぶとき、2×3×2×1=12通り

あわせて6+12=18通り

以上から、答えは4×6×18=432通り

 

 

補足

(2)の方が簡単かもしれないと感じました。東大の問題としてはかなり簡単な部類に入るかと思います。

 

 

前回

中学生でも解ける大学入試数学76★★ 早大実業高

次回

中学生でも解ける大学入試数学78★★ 2019年数オリ予選

 

written by k

【数学小話】大学入試「出ない」積分ランキング

大学入試で出る積分の問題は、当たり前ですが高校までの知識で求められる積分しか出ません。今回は大学以上の知識で求められる有名な積分を見てみます。また、高校数学の範囲を超えている部分をうまいこと避けて入試問題が作られる場合がありますから、そのような例も確認します。

これで大学入試対策はばっちり(大嘘)

 

 

5位:逆三角関数

原始関数が逆三角関数となるような関数を不定積分する問題は出ません。逆三角関数は高校数学では習いませんから。

\displaystyle\int\frac{dx}{\sqrt{a^2-x^2}}=\mathrm{Arcsin}\frac{x}{a}+C\\\displaystyle\int\frac{dx}{a^2+x^2}=\frac{1}{a}\mathrm{Arctan}\frac{x}{a}+C

三角関数というのは三角関数逆関数です。x=\sin{y}という関係式について、-1\leqq x \leqq1のとき、1つのxに対して等式を成り立たせるyの値は-\frac{\pi}{2}\leqq y\leqq\frac{\pi}{2}の範囲にただ1つあります。この対応をy=\mathrm{Arcsin}xと書きます。(アークサインと読む)同様にArccos,Arctanも定義されます。それぞれ定義域、値域に注意する必要があります。

さて、高校で習わないこの関数は、(不定積分は出ませんが)積分は大学入試で頻出です。数IIIを習う人は全員「こうやって置換しましょう」と覚えさせられます。

例①

\displaystyle\int_0^{a}\frac{dx}{\sqrt{a^2-x^2}}\ \ (a>0) 

は、x=a\sin{\theta}と置換して解く。dx=a\cos{\theta}d\thetaで、

\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{a\cos{\theta}d\theta}{\sqrt{a^2-a^2\sin^2{\theta}}}\\\displaystyle=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{a\cos{\theta}d\theta}{a|\cos{\theta}|}\\\displaystyle=\int_0^{\frac{\pi}{2}}d\theta=\frac{\pi}{2}

 

このように\sqrt{a^2-x^2}が出てくる定積分x=a\sin{\theta}と置換すると解けるようになっているのがほとんどです。同様に、\dfrac{1}{x^2+a^2}が出てくる定積分x=a\tan{\theta}と置換すると解けるものがほとんどです。そもそもこのように置換するのも、もともと逆三角関数が原始関数だったからなのです。

 

 

4位:ガウス積分

 ガウス積分とは、この積分を指します。

\displaystyle\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}dx=\sqrt{\pi}

積分範囲に±∞を書く時点で高校範囲外ですが、これは

\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{-n}^n e^{-x^2}dx

と思えば高校数学でも十分理解できます。よって積分範囲は気にしないことにします。さて被積分関数は偶関数なので、次の形で見ることもあります。

\displaystyle\int_{0}^\infty e^{-x^2}dx=\dfrac{\sqrt{\pi}}{2}

この積分統計学で非常に重要です。正規分布という、データの集まり具合を示す関数、グラフがこの被積分関数で表されます。

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このグラフがy=e^{-x^2}を表します。工場で大量に製造される部品の重さ、たくさんの人が受験した模試の点数など、さまざまなデータがこのグラフのような形状で分布します。(統計学の理論より、データの数が多ければ多いほどこのグラフの形状に近づきます)

偏差値の計算は、この正規分布を使って求められるもので、偏差値60は上位約16%、偏差値70は上位約2%といった数値も計算によって導き出されます。自分の点数がグラフのどの位置にいるのかによって偏差値を計算することが出来るわけです。

高校の数Iで習う「データの分析」における分散、標準偏差といった数値は統計学の基礎中の基礎にあたる内容です。また、多くの学校ではやりまんし、ほとんどの大学で範囲外になりますが、数Bでさらに進んだ「確率分布と統計的な推測」ではそこにこの正規分布が載っています。

このガウス積分

\displaystyle\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}dx

は高校数学の範囲でなんとか解けなくもないです。方針としては、

\displaystyle\int_{-n}^n e^{-x^2}dx

を何らかの高校数学までで求められる積分で上下から不等式で評価し、挟みうちの原理で出します。東工大2015年では誘導付きで

\displaystyle\sqrt{\pi(1-e^{-a^2})}\leqq\int_{-a}^a e^{-x^2}dx

を証明する問題も出ています。

 

3位:ディリクレ積分

これはどうあがいても高校数学では求められない(とされている)積分です。ディリクレ積分とは次の積分を言います。

\displaystyle\int_{0}^\infty \frac{\sin{x}}{x}dx=\frac{\pi}{2}

ちなみに、被積分関数を0からxまで積分して得られる関数

S(x)=\displaystyle\int_{0}^x \frac{\sin{t}}{t}dt

は、初等関数で表すことが出来ないものとして知られています。

ディリクレ積分は複素積分というものを使って計算されます。\frac{\sin{x}}{x}複素数にまで拡張し、そこである複素数平面上のループにそって積分したものを利用すると、実数の積分が求められてしまうのです。複素積分の応用例としてたいてい習うものです。

 

 

2位:フレネル積分

フレネル積分とは、これらの積分を指します。

\displaystyle\int_{0}^x \cos{(t^2)}dt,\int_{0}^x \sin{(t^2)}dt

これも高校数学では不可能で、x→∞の極限の値は複素積分で求まります。

\displaystyle\int_{0}^\infty \cos{(t^2)}dt=\int_{0}^\infty \sin{(t^2)}dt=\sqrt{\dfrac{\pi}{8}}

これは物理学のフレネル回折という波の回折現象の解析に用いられます。

また、媒介変数表示

\displaystyle X(t)=\int_{0}^x \cos{(t^2)}dt,Y(t)=\int_{0}^x \sin{(t^2)}dt

で表された曲線のグラフは以下のようになり、たとえば車のハンドルを一定の速さで回し続けるときの車の走行する軌道がこのようになります。

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(画像はWikipediaより)

 

 

1位:楕円積分

第1種楕円積分、第2種楕円積分、第3種楕円積分とあり、どれも高校数学では計算できません。初等関数で書き表すこともできません。それぞれ以下の通り。

\displaystyle\int_{0}^x\frac{dt}{\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}\\\displaystyle\int_{0}^x\sqrt{\frac{1-k^2t^2}{1-t^2}}dt\\\displaystyle\int_{0}^x\frac{dt}{(1-at^2)\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}

それぞれ物理などにおいて重要な、よく見る積分です。

まず、第1種楕円積分は次のように書き換えられます。

\displaystyle\int_{0}^\phi\frac{d\theta}{\sqrt{1-k^2\sin^2{\theta}}}

これを\phi=\frac{\pi}{2}としたものを第1種完全楕円積分といい、これは物理学における「単振り子の周期」を求めるものにあたります。高校数学においては単振り子の振幅が十分小さいとき\theta\fallingdotseq\sin{\theta}と近似でき、この近似のもとで周期が簡単な形にかけました。この近似をせずに周期を求めようとすると、この積分を計算する必要が出てきます。

第2種楕円積分は次のように書き換えられます。

\displaystyle\int_{0}^\phi\sqrt{1-k^2\sin^2{\theta}}d\theta

これを\phi=\frac{\pi}{2}としたものを第2種完全楕円積分といい、楕円の周の長さを求めようとするとこの積分が現れます。

 

これら楕円積分に出てきた積分は初等関数でかけませんが、いかに簡単な形に書き換えられるか、これらの積分間にどんな関係があるか、といったことを研究する「楕円関数論」という分野があります。上で見たように、楕円関数は物理学でしばしば登場する重要なテーマです。

 

 ということで以上です。数IIIの積分は気合で正確に計算しきるのが重要です。

 

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