【数学小話】入試問題の背景に隠れる大学数学③
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入試問題には、大学数学の内容を高校数学に持ってきたかのような問題がたまに見られます。もちろん、受験生が大学数学の背景を知っている必要は全くありませんが、せっかくなので見ていきましょう。ついに第3回。
第一回 こちら
第二回 こちら
第三回 この記事
数の性質について、2018年の早稲田大学理系から。
問題
pを素数、a,b,cを整数とする。次を示せ。
(1) ∛pは無理数である。
(2)~(3)省略
(4) a(∛p)2+b∛p+c=0 ならば、a=b=c=0 である。
背景
大学では群、環、体という新しい概念を学びます。体論の中にガロア理論と呼ばれるものがあり、これはあの有名な「5次以上の方程式に解の公式がない」ことの証明を与えます。ガロア理論によって他にも「与えられた角度の3等分線は一般には作図できない」ことや「与えられた正方形と同じ面積の円は作図できない」ことも証明出来ます。
さて体とは何かを簡単に説明すると、「加減乗除で閉じている数の世界」です。例えば有理数全体からなる集合(これはしばしばと書かれます)は体です。すなわち、
有理数同士の加減乗除は必ず有理数になっている(ただし0で割ることは考えない)
ということが有理数では成り立ちます。このように計算結果が考えている数の世界からはみ出ないとき、閉じているといいます。一方、整数全体や自然数全体では、加減乗除について閉じていないので体ではありません。実数全体や複素数全体は体です。(その数の集合が体であることを強調するために、しばしば有理数体、実数体、複素数体などと呼びます)
さて、体から新しく体を作るために、添加という操作を考えます。体Aに数xを添加するとは、体Aの全ての数とxを使って加減乗除で作れる数全てを考えた数の世界を考える、ということをいいます。これで新しく体が出来ます。
例えば、実数の集合に虚数単位を添加すると、複素数の集合が得られます。
複素数というのはa,bを実数としてa+biと表される数からなりますが、実数とiの四則演算で作られる数は全てこの形に落ち着きます。という形は簡単に分母を実数に出来ることはよく知られていますね。
では次に、有理数に∛pを添加した体はどのような数からなるのでしょうか。実数と∛pの加減乗除で出来る数全てを考えるわけですから、少なくとも∛p×∛p=(∛p)2はこの体に属します。
実はこの体に属する数はどれも、a,b,cを有理数として、
a(∛p)2+b∛p+c
と表されることが知られています。
例えば、であれば、を利用して、
このように、a(∛p)2+b∛p+c の形に出来ます。(はてなブログの仕様で、3乗根の表示が綺麗に出来ませんでした。申し訳ありません)他の分数も、うまくやれば同じ形に書き換えることが可能なのです。
では今回取り上げた入試問題とどう関連するかというと、
a(∛p)2+b∛p+c=0 ならば a=b=c=0
ということは、
に∛pを添加した体の元は全てa(∛p)2+b∛p+cとただ一通りに表される
ということを意味しているのです。この体では1, ∛p, (∛p)2 が基本的な最小単位と言えるわけです。
written by k