【数学小話】入試問題の背景に隠れる大学数学②
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入試問題には、大学数学の内容を高校数学に持ってきたかのような問題がたまに見られます。もちろん、受験生が大学数学の背景を知っている必要は全くありませんが、せっかくなので見ていきましょう。受験勉強の息抜きにでも見ていってください。
第一回 こちら
第二回 この記事
第三回 こちら
初回は数列の収束について、1996年の北大理系から。
問題
(1)数学的帰納法により次を示せ。ただし、nは自然数とする。
(2)次の命題は真が偽か。真ならば証明し、偽ならば反例をあげて説明せよ。
ならば数列は収束する。
解答
(1)略解。n=1の場合はすぐ示せる。n=kで成り立つと仮定し、n=k+1にすることで左辺のΣで新たに足される項の合計が、以上であることを示せばよい。そのアイデアは、例えば私のこの記事を使えばよい。
(2) とすると、を満たすが、(1)よりとおいてとすれば、となるため、偽。
背景
大学数学では、実数の数列だけでなく、複素数を値にもつ複素数列や、さらには平面や一般の空間上の点の列を考え、それが収束するかどうかを考えることがあります。
さて、(2)の命題の前半、を満たす(大学数学では表記が異なりますが、意味は同じです)数列は、一般には収束しないことが分かりました。では、もう少しきつい条件で、常に収束すると言えるようなものはあるのでしょうか。
実はあります。
それは、コーシー列と言います。コーシー列の定義は以下の通り。大学数学的な書き方なので、理解が難しいかもしれません。
任意のに対し、ある自然数が存在し、ならば常に
が成り立つ。
平たく言うと、どんなにごく小さな幅を指定しても、ある番号より先の数列は全部差が未満になる、そういうが見つかる、というのがこのコーシー列の定義です。
そして、実数においてはコーシー列であることと収束することは必要十分だということが知られています。
また、実数ではければその限りではありません。例えば、有理数の値をとる数列は、収束したとしても、有理数の範囲で収束するとは限りません。例えば、
は、無理数です。そこでこの無限小数の表示を利用して、有理数列として、
とすれば、これは有理数列で、実はコーシー列であることが確認できます。しかし、収束値は当然、
ですから、収束する値は有理数ではありません。有理数の世界では、コーシー列は収束しても、その収束先が有理数とは限らないのです。この意味で、有理数の世界ではコーシー列は収束しない、と言います。
考えている数の世界で任意のコーシー列が収束する、つまり収束先が存在して、その値も考えている数の世界に含まれるとき、その数の世界を完備である、といいます。
つまり、実数は完備ですが、有理数は完備ではありません。完備である、というのは極限が存在するので、理論を構築する上で様々な面で都合が良いのです。
written by k