【数学小話】素数のみが現れる不思議な数列
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ミル定数という定数をご存知でしょうか。ミル定数とは、素数と興味深い繋がりがある、とある実数の定数です。1946年にMillsが見つけました。
A=1.3063778838...
この2にも満たない値を使って、次のような式を考えます。
ここで、とは、実数xを超えない最大の整数を表します。別の言い方をすれば、整数部分のことです。この記号はガウス記号と呼ばれることがあります。
なんと、この式にn=1,2,3,...と自然数を代入していくと、現れる数が全て素数になります!
n=1のとき、
n=2のとき、
n=3のとき、
n=4のとき、
...
全ての素数が順番に出てくるわけではなく、非常に飛び飛びの値をとりますが、素数しか現れない数列が出来ました。
今回はこの数列がどのようにして生まれたか、その背景を覗いてみましょう。
ミル定数が生まれるまで
Millsはまず次を示しました。
これを使って、最小の素数2をもってきてとして、
を満たす素数pの中から11を選んで、とし、さらに
を満たす素数pの中から1361を選んで、とします。
この手順を繰り返して、素数の列{2,11,1361,2521008887,...}が得られます。補題のおかげで、不等式を満たす素数の存在は保証されています。
素数からなる数列が定義出来たので次に、
と置きます。({3の-n乗}乗です)
はnを増やしていくと、ある値に限りなく近づきます。(これを数列が収束すると言います)
その近づく値、すなわち極限値こそが、最初に述べた通り、
A=1.3063778838...
という値でミル定数なのです。
定理
証明(概略)
とおく。
の構成より、
すなわち
となるので、 の整数部分はである。
役に立つのか
正直、役に立ちません。今のところは。
まず、ミル定数を得るためには、事前に不等式
を繰り返し用いて素数の数列を用意しなければなりません。そうしてから得られたミル定数Aを使った
で現れる素数は、事前に用意した数列そのものになります。
つまり、素数を生み出す式を作るために、前もってその式に出てくる素数を全て知っておかなければならないのです。じゃあその式の存在理由は…?と思われても仕方ありません。この式で新しい素数が見つかるわけではないのです。
また、この作り方より、次に現れる素数は1つ前の素数の3乗くらいの大きさで、増加ペースがかなり速いです。桁数の大きい素数はそもそもあまり知られていません。そういう意味で、この定数を得るための数列も、実は無限には用意できません。あまりにも大きな整数は、素数かどうかをチェックするだけで膨大な時間がかかります。
ただ、「素数しか出てこない数列」というのは話として面白いですし、役に立つかどうかは未来の人が決めることです。役に立たないと思われていたものが、何年も経ってからその応用が見つかる、というのは数学ではよくあることです。
補足
さて、このやり方をまねれば、素数しか出てこない式はたくさん作れます。
ミル定数を作るまでに、まず素数の列を事前に用意しました。どう用意したかというと、
として、
を満たす素数pの中から11を選んで、とし、さらに
を満たす素数pの中から1361を選んで、とする
という方法でした。ミル定数を作るうえでは、不等式を満たす素数のうち最小のものを常に選んでいます。
ここで注意することとして、不等式を満たす素数が1つとは限りません。
例えばを決める段階で、
は、
ですから、としてもいいわけです。それに応じてそれ以降にとる素数も変わってきます。そもそも、最初の素数がでなくても構いません。
不等式を満たす素数を取る限り、どの素数を選んでも、最終的にがある値に収束することがMillsによって示されています。その値を使った同じ式は、ミル定数の時とは違う素数の列が出てくる式が出来ます。
また、
のような素数の分布に関する不等式はたくさん研究されていて、改良された不等式がいくつも見つかっています。それらを使うことで、例えば
の形をした、素数しか出てこない式を作ることも出来ます。
素数しか出てこない式で言えば、これまた実用性のあまりない式をもう一つ、過去にこのブログで紹介しています。
【数学小話】病的な数学② 歴史的に有名な反例 - 日比谷高校のススメ
もしご興味があればご一読ください。
今回は以上です。
written by k