【数学小話】もはやπは円に関するものにとどまらない
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おそらく日本人のほぼすべての人が初めて知る無理数であるπ。これは円周率のことで、円の直径と円周の長さの比を表す値です。
我々は数学の時間に、円や扇形の問題で何度もπを目にします。πの本来の定義からして、幾何学でπを目にするのはある種の必然だと言えるでしょう。しかし今日の数学ではπは幾何学に限らずさまざまな分野で登場し、もはや円に関するものにとどまらないのです。この記事ではその例を見ていきます。
πの現れる公式
πの現れる美しい公式はたくさん知られています。いくつか見てみましょう。
これらはほんの一例です。無理数であるπがこのような美しい式で特徴づけられるのは興味深く、眺めているだけで面白いです。
こういった公式は、円と関係ない所から見つかり、そのあと円などを絡めた幾何的な証明または解釈が与えられることもあります。
こんなところに円周率
本来円の直径と円周の長さの比を表すはずであるπは、数論、確率、複素数、果てには物理の光、素粒子など、あらゆる分野に顔を見せます。
とくに素数とπは深く関係しています。例えば、次のようなことが知られています。
勝手に選んだ2つの自然数が互いに素である確率は、である。
勝手に選んだ1つの自然数が平方数で割り切れない確率は、である。
πは、現実世界にも表れます。世界中の川の衛星写真から、源から河口までの直線距離と、曲がりくねった川の実際の長さを測ります。このとき、を平均すると、なんとπになります。『フェルマーの最終定理』の著者サイモン・シンはこれを興味深いこととして指摘しています。
統計では、おそらく最も重要な関数である正規分布でπが現れます。正規分布とは、偏差値の分布を表すグラフなどでよく見る、世の中の多くの事柄について、大量のデータを集めてグラフを描くとこれに近づく、という分布です。その確率密度関数は
となります。
πは超越的な存在
最後に、数としてのπの性質に触れます。πはと同じくらい無理数として代表的な例ですが、高校の数の性質などの証明問題ではあまり見ません。それはなぜか。
一言でいうと、πは超越数と呼ばれる存在だからです。
超越数の定義は、簡単に言うとあるとあらゆる(整式)=0という方程式の解になり得ない数です。
整式とは係数が整数の多項式のことで、したがって超越数であるというのはつまりみたいな方程式の解として現れることは絶対にない、ということを意味します。もちろん、係数に実数を許すのであればとかでいいですから、そういう当たり前な場合を省くために、整式としているのです。
πは、数IIBまでに登場する唯一の超越数だと言えます。(数IIIではeというものが登場し、高校数学では扱いませんが実はこれは超越数です)これはπが特別な存在に見える理由の一つかもしれません。
(大学で習うガロア理論では、このように係数がこの範囲の方程式の解はどれくらい複雑になり得るかといったことを研究します。興味がある方は本などを調べてみるとよいと思います。)
π自体にも、まだまだ謎が残っています。πは現在何十兆桁と計算されています。無理数ですから当然どこまでも終わらないのですが、小数点以下に現れる数字は完全ランダムなのか、0から9までの数字が同じくらいの割合で現れるのかというと、これまで計算された結果の範囲内ではかなり均等であることが分かっていますが証明されていません。また、どこまでも無限に続くのだからどんな数字の列も見つかる、という俗説もありますが、これも証明されていません。
ただ、こういった面白いサイトがあります。円周率の中にある数列が入っているか調べるサイトがあります。小数点以下20億桁までの中にあるかどうかを調べてくれるようです。
Irrational Numbers Search Engine
このサイトではπの他に、eや、黄金比からも探してくれるようです。自分の生まれた日付などを探してみてはいかがでしょうか。
参考文献
『メビウスの帯』クリフォード・A・ピックオーバー
written by k