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【数学小話】大学入試「出ない」積分ランキング

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大学入試で出る積分の問題は、当たり前ですが高校までの知識で求められる積分しか出ません。今回は大学以上の知識で求められる有名な積分を見てみます。また、高校数学の範囲を超えている部分をうまいこと避けて入試問題が作られる場合がありますから、そのような例も確認します。

これで大学入試対策はばっちり(大嘘)

 

 

5位:逆三角関数

原始関数が逆三角関数となるような関数を不定積分する問題は出ません。逆三角関数は高校数学では習いませんから。

\displaystyle\int\frac{dx}{\sqrt{a^2-x^2}}=\mathrm{Arcsin}\frac{x}{a}+C\\\displaystyle\int\frac{dx}{a^2+x^2}=\frac{1}{a}\mathrm{Arctan}\frac{x}{a}+C

三角関数というのは三角関数逆関数です。x=\sin{y}という関係式について、-1\leqq x \leqq1のとき、1つのxに対して等式を成り立たせるyの値は-\frac{\pi}{2}\leqq y\leqq\frac{\pi}{2}の範囲にただ1つあります。この対応をy=\mathrm{Arcsin}xと書きます。(アークサインと読む)同様にArccos,Arctanも定義されます。それぞれ定義域、値域に注意する必要があります。

さて、高校で習わないこの関数は、(不定積分は出ませんが)積分は大学入試で頻出です。数IIIを習う人は全員「こうやって置換しましょう」と覚えさせられます。

例①

\displaystyle\int_0^{a}\frac{dx}{\sqrt{a^2-x^2}}\ \ (a>0) 

は、x=a\sin{\theta}と置換して解く。dx=a\cos{\theta}d\thetaで、

\displaystyle\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{a\cos{\theta}d\theta}{\sqrt{a^2-a^2\sin^2{\theta}}}\\\displaystyle=\int_0^{\frac{\pi}{2}}\frac{a\cos{\theta}d\theta}{a|\cos{\theta}|}\\\displaystyle=\int_0^{\frac{\pi}{2}}d\theta=\frac{\pi}{2}

 

このように\sqrt{a^2-x^2}が出てくる定積分x=a\sin{\theta}と置換すると解けるようになっているのがほとんどです。同様に、\dfrac{1}{x^2+a^2}が出てくる定積分x=a\tan{\theta}と置換すると解けるものがほとんどです。そもそもこのように置換するのも、もともと逆三角関数が原始関数だったからなのです。

 

 

4位:ガウス積分

 ガウス積分とは、この積分を指します。

\displaystyle\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}dx=\sqrt{\pi}

積分範囲に±∞を書く時点で高校範囲外ですが、これは

\displaystyle\lim_{n\rightarrow\infty}\int_{-n}^n e^{-x^2}dx

と思えば高校数学でも十分理解できます。よって積分範囲は気にしないことにします。さて被積分関数は偶関数なので、次の形で見ることもあります。

\displaystyle\int_{0}^\infty e^{-x^2}dx=\dfrac{\sqrt{\pi}}{2}

この積分統計学で非常に重要です。正規分布という、データの集まり具合を示す関数、グラフがこの被積分関数で表されます。

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このグラフがy=e^{-x^2}を表します。工場で大量に製造される部品の重さ、たくさんの人が受験した模試の点数など、さまざまなデータがこのグラフのような形状で分布します。(統計学の理論より、データの数が多ければ多いほどこのグラフの形状に近づきます)

偏差値の計算は、この正規分布を使って求められるもので、偏差値60は上位約16%、偏差値70は上位約2%といった数値も計算によって導き出されます。自分の点数がグラフのどの位置にいるのかによって偏差値を計算することが出来るわけです。

高校の数Iで習う「データの分析」における分散、標準偏差といった数値は統計学の基礎中の基礎にあたる内容です。また、多くの学校ではやりまんし、ほとんどの大学で範囲外になりますが、数Bでさらに進んだ「確率分布と統計的な推測」ではそこにこの正規分布が載っています。

このガウス積分

\displaystyle\int_{-\infty}^\infty e^{-x^2}dx

は高校数学の範囲でなんとか解けなくもないです。方針としては、

\displaystyle\int_{-n}^n e^{-x^2}dx

を何らかの高校数学までで求められる積分で上下から不等式で評価し、挟みうちの原理で出します。東工大2015年では誘導付きで

\displaystyle\sqrt{\pi(1-e^{-a^2})}\leqq\int_{-a}^a e^{-x^2}dx

を証明する問題も出ています。

 

3位:ディリクレ積分

これはどうあがいても高校数学では求められない(とされている)積分です。ディリクレ積分とは次の積分を言います。

\displaystyle\int_{0}^\infty \frac{\sin{x}}{x}dx=\frac{\pi}{2}

ちなみに、被積分関数を0からxまで積分して得られる関数

S(x)=\displaystyle\int_{0}^x \frac{\sin{t}}{t}dt

は、初等関数で表すことが出来ないものとして知られています。

ディリクレ積分は複素積分というものを使って計算されます。\frac{\sin{x}}{x}複素数にまで拡張し、そこである複素数平面上のループにそって積分したものを利用すると、実数の積分が求められてしまうのです。複素積分の応用例としてたいてい習うものです。

 

 

2位:フレネル積分

フレネル積分とは、これらの積分を指します。

\displaystyle\int_{0}^x \cos{(t^2)}dt,\int_{0}^x \sin{(t^2)}dt

これも高校数学では不可能で、x→∞の極限の値は複素積分で求まります。

\displaystyle\int_{0}^\infty \cos{(t^2)}dt=\int_{0}^\infty \sin{(t^2)}dt=\sqrt{\dfrac{\pi}{8}}

これは物理学のフレネル回折という波の回折現象の解析に用いられます。

また、媒介変数表示

\displaystyle X(t)=\int_{0}^x \cos{(t^2)}dt,Y(t)=\int_{0}^x \sin{(t^2)}dt

で表された曲線のグラフは以下のようになり、たとえば車のハンドルを一定の速さで回し続けるときの車の走行する軌道がこのようになります。

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(画像はWikipediaより)

 

 

1位:楕円積分

第1種楕円積分、第2種楕円積分、第3種楕円積分とあり、どれも高校数学では計算できません。初等関数で書き表すこともできません。それぞれ以下の通り。

\displaystyle\int_{0}^x\frac{dt}{\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}\\\displaystyle\int_{0}^x\sqrt{\frac{1-k^2t^2}{1-t^2}}dt\\\displaystyle\int_{0}^x\frac{dt}{(1-at^2)\sqrt{(1-t^2)(1-k^2t^2)}}

それぞれ物理などにおいて重要な、よく見る積分です。

まず、第1種楕円積分は次のように書き換えられます。

\displaystyle\int_{0}^\phi\frac{d\theta}{\sqrt{1-k^2\sin^2{\theta}}}

これを\phi=\frac{\pi}{2}としたものを第1種完全楕円積分といい、これは物理学における「単振り子の周期」を求めるものにあたります。高校数学においては単振り子の振幅が十分小さいとき\theta\fallingdotseq\sin{\theta}と近似でき、この近似のもとで周期が簡単な形にかけました。この近似をせずに周期を求めようとすると、この積分を計算する必要が出てきます。

第2種楕円積分は次のように書き換えられます。

\displaystyle\int_{0}^\phi\sqrt{1-k^2\sin^2{\theta}}d\theta

これを\phi=\frac{\pi}{2}としたものを第2種完全楕円積分といい、楕円の周の長さを求めようとするとこの積分が現れます。

 

これら楕円積分に出てきた積分は初等関数でかけませんが、いかに簡単な形に書き換えられるか、これらの積分間にどんな関係があるか、といったことを研究する「楕円関数論」という分野があります。上で見たように、楕円関数は物理学でしばしば登場する重要なテーマです。

 

 ということで以上です。数IIIの積分は気合で正確に計算しきるのが重要です。

 

written by k

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