日比谷高校のススメ

日比谷高校出身者たちが日比谷高校の紹介や、勉強に関する様々なことを語ります。

【数学小話】10958問題

2020年4月11日、自粛要請のため日比谷生の皆さんは家庭で勉強されているかと思います。その息抜きになることを願って、この「10958問題」を紹介します。

 

 

問題設定

1,2,3,4,5,6,7,8,9の数字をこの順番で1回ずつ使って、さまざまな数を作れ。

ただし、使ってよい記号は+,-,×,÷,( ),^ のみである。

また、23や567のように、つなげて2桁以上の自然数として扱ってもよい。1の直前-を付けて、-1にしてもよい。

 

※ 記号「^」は、累乗を表す記号です。a^bでaのb乗を意味します。

 

 

 

具体例

100=1+2+3+4+5+6+7+8\times9

412=123+4\times56+7\times8+9

1000=1+2+34\times(5+6)\times7+8\times9

9931=12^3\times4-5+6\times7\times8\times9

 

さて、このルールで0から順番に整数を作ってみましょう。

 

0=12+23-56-7+8+9

1=1^{23456789}

2=123+4-56-78+9

3=123-45-6-78+9

4=12-34-56-7+89

5=12-34+5-67+89

6=12+34+56-7-89

7=1+23-4+56-78+9

8=1-23-45+6+78-9

9=1^{2345678}\times9

10=1^{2345678}+9

とりあえず0から10まで書いてみました。小さい数は足し引きだけで済むことがほとんどなので思いつきやすいでしょう。ちなみに私はカンニングしました。

というのも、0から11111までをずらーーっと紹介する論文があるのです。それが2013年提出、2014年改訂されたこちら。

https://arxiv.org/pdf/1302.1479.pdf

pdfで161ページもあります。この論文は数字が1から9にのぼるものだけでなく、9から1にくだるものも全て載っています。暇な皆さんはぜひ全ての結果を覚えてみてください。

そして本題。

 

 

10958問題

実は、この論文によると、
10958を作る式だけ見つかっていない
のです。

f:id:hby:20200411170508j:plain

(上のリンクの論文158ページより)

0から11111までのありとあらゆる整数は実際に作れるのです。なのに、唯一10958だけ見つかっていないのです。なぜでしょうか。10958という数字は何か特別な数字なのかもしれません。

調べた限り、2020年4月11日現在、まだ10958を作る式はまだ確認されておりません。(√や!など、いくつかの記号を使えるとしたルールでは式が見つかっている)

この記事を読んで下さったみなさんも、ぜひ挑戦してみてください。プログラミングに自信がある方はプログラムを組んで見つけてみるもよし。10958になるべく近い数を作るもよし。 ちなみにこんな式が見つかっています。

-1-2/3-4^{5-(6-7)/8}\times9=10958.06

誰も見つけていないだけかもしれませんし、そもそも答えがないのかもしれません。紙とペンを用意して、家でこもりっきりで固まった頭をほぐしてみてはいかがでしょうか。

 

 

 

written by k

 

【数学小話】ついに証明されたABC予想

2020年4月3日、数学の超難問であった「ABC予想」を証明したとされた論文が、8年に及ぶ査読の末、正しいことが認められました。「フェルマーの最終定理」や「ポアンカレ予想」の証明に並ぶ快挙であると言われています。今回はこのABC予想の内容や、何がすごいのか、という話について。

 

 

 

 

ABC予想とは

準備①

まず、自然数n に対して、n の互いに異なる素因数の積n の根基 (radical)と呼ぶことにし、\mathrm{rad}(n) と書くことにします。例を見てみます。(a\cdot ba\times b を表します。これは主に高校以上で使う記法です)

\mathrm{rad}(7)=7\\\mathrm{rad}(12)=\mathrm{rad}(2^2\cdot3)=2\cdot3=6\\\mathrm{rad}(210)=\mathrm{rad}(2\cdot3\cdot5\cdot7)=2\cdot3\cdot5\cdot7=210\\\mathrm{rad}(5000)=\mathrm{rad}(2^3\cdot5^4)=2\cdot5=10

n が同じ素因数を複数持っていると、\mathrm{rad}(n) 小さくなるということがわかります。この根基というものが重要です。

 

準備②

a,b を互いに素な自然数とし、a+b=c のとき、
c\mathrm{rad}(abc) はどちらが大きいかを考えると、多くの場合はc<\mathrm{rad}(abc) となります。(実際にさまざまな互いに素なa,b で試してみてください)

1+3=4,\ 4<\mathrm{rad}(1\cdot3\cdot4)=6\\2+3=5,\ 5<\mathrm{rad}(2\cdot3\cdot5)=30\\6+19=25,\ 25<\mathrm{rad}(6\cdot19\cdot25)=570

もちろん、反例もあります。

1+8=9,\ 9>\mathrm{rad}(1\cdot8\cdot9)=6\\1+80=81,\ 81>\mathrm{rad}(1\cdot80\cdot81)=30\\11^2+3^2\cdot5^6\cdot7^3=2^{21}\cdot23,\ 2^{21}\cdot23<\mathrm{rad}(11^2\cdot3^2\cdot5^6\cdot7^3\cdot2^{21}\cdot23)

実は、a=1,b=3^{2^n}-1,c=3^{2^n} のとき、必ずc>\mathrm{rad}(abc) となるので、反例は無数に存在すると言えます。

準備③

a,b を互いに素な自然数a+b=c なるほとんどの組(a,b,c)
c<\mathrm{rad}(abc)
を満たしますが、
c>\mathrm{rad}(abc)
となる組も割合は少ないですが無数に存在することが分かりました。では少し条件を強くして、

c>\mathrm{rad}(abc)^{2}
となる組はどれくらいあるのでしょうか?実は今のところ見つかっていません。少し緩めて、

c>\mathrm{rad}(abc)^{1.4}
となる組はどれくらいあるのでしょうか?コンピューターの計算により、c<10^{8} までの組のうち、たった25組しかありません。さらに緩めて、

c>\mathrm{rad}(abc)^{1.1}
となる組はどれくらいあるのでしょうか?コンピューターの計算により、c<10^8 までの組のうち、これでも1801組しかありません。

このように、

c>\mathrm{rad}(abc)^{1+\varepsilon}

という不等式において、\varepsilon=1,\ 0.4,\ 0.1,\ 0.01,\ \dots と、指数を1に近づけていくとき、条件が緩くなるので当然成り立つ組が増えますが、そうでない組のほうが圧倒的に多く存在するわけです。

 

ABC予想の主張

\varepsilon>0 を任意の(小さい)正の数とします。a,b を互いに素な自然数a+b=c とし、

c>\mathrm{rad}(abc)^{1+\varepsilon}

が成り立つ組(a,b,c) は高々有限個しか存在しない。

 

これが主張です。右辺の指数がぴったり1にならない限り、つまり指数が1.0000000001でも1.00000000000000000000000001でも、成り立つ組は有限個しかない、というのがABC予想です。指数がぴったり1になると無数に存在するのに、ほんのわずかでも1を超えると有限個しか存在しない(かもしれない)のです。

この予想は1985年に生まれたもので、35年越しの解決となりました。

 

 

ABC予想を証明したIUT理論

望月新一・京都大数理解析研究所教授は、独自に新しい理論、「宇宙際タイヒミューラー(IUT)理論」を編み出し、この理論がABC予想を証明しました。この理論は全く新しい、難関な理論で、そもそも世界中の数学者のほんのわずかしかこの理論を正しく理解できていません。ちなみに、望月教授のホームページにこのような言葉が書かれています。

「IUTeich」(宇宙際タイヒミューラー理論)ですが、様々な既存の理論の上に成り立っているそれなりに高級な理論なので、修士課程の段階で直接IUTeichの勉強を始めるのはちょっと難しいと思います

これは数学者特有のオブラートに包んだ言い方をしていますが、要するに、

IUT理論は既存の理論の十分な理解を前提とするとても難しい理論なので、修士課程の段階でIUT理論を学び始めるのはほぼ不可能だ

と言っていると解釈できます(あくまで私個人の意見です)。修士課程というのは、大学に入学して4年間勉強して卒業して院に進学した2年間を指します。大学で4年間勉強した程度では歯が立たないと言っているように聞こえるわけです。

 2020年4月4日、望月教授のホームページでIUT理論の論文が公開されたので、筆者も眺めてみましたが、もちろん理解できませんでした。楕円曲線幾何学圏論、等々さまざまな分野の知識をふんだんに駆使する理論で、非常に難解です。

このIUT理論を用いることで、複雑に絡み合っている足し算と掛け算を分離することができ、それぞれの関係性により深く迫ることができるそうです。

 

正直、詳しいことは私には全く分かりません。世界中の数学者が8年かけてやっと理解できる程度の難しさなので。ただ、このIUT理論について分かりやすくかみ砕いた本が出ています。(私はこれから読もうかと思います)

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃

  • 作者:加藤 文元
  • 発売日: 2019/04/25
  • メディア: 単行本
 

 今回ABC予想が証明されたことに伴い増刷が決定したそうです。今最も注目を集めている本かもしれません。

 

 

 

ABC予想の何がすごいのか

そもそもABC予想フェルマーの最終定理よりも非常に難しい問題とされています。それを証明したというだけでとてつもなく偉大な功績です。

その超難問を解決するのに、IUT理論という全く新しい理論を一から作り上げたという離れ業を成し遂げました。

また、このIUT理論はあまりにも難しく、世界中の数学者に異世界からきた」「新しい概念ゆえに、どこが分からないのかさえ分からないと言わせるほどです。

数学というのは、時間が経てば経つほど「証明された事実」というのが積み重なっていくので、有限の時間しかない人間はそのごく一部しか理解できません。したがって、今回のような全く新しい理論を持ち出してとてつもなく偉大な発見をすると、検証するのに必要な知識をピンポイントで全て持っている数学者はほぼいないのです。数学者というのはそれぞれに特化した専門分野を持つのが普通ですから、誰も理解できない、というのはこのような背景からきています。

また、このIUT理論、それを用いて証明されたABC予想が正しいと証明されたことで、他のいくつもの数学上の未解決問題も連鎖的に正しいと証明されることになります。

他にも、フェルマーの最終定理の別証明を与えることにもなります。もともとABC予想が正しければ、フェルマーの最終定理がこんなに短く証明できる、という論文が存在しました。ABC予想が正しいと認められたのでこれをもって正式に別証明が与えられることとなりました。その論文はたった10行程度の説明しかなく、驚くほどスマートな証明、ということになります。

フェルマーの最終定理

n を3以上の自然数とするとき、
x^n+y^n=z^n
を満たす自然数の組(x,y,z) は存在しない。

(実際は"ABC予想の亜種"が正しければであり、しかもnが6以上のときの証明ですが)

 

また、ABC予想に用いられたIUT理論は楕円曲線と深い関わりがありますが、楕円曲線素数とも関係があり、素因数分解アルゴリズムや暗号にも組み込まれています。そういう意味では、日常生活と全くの無縁とも言い切れないかもしれません。

 

ということで、ABC予想についてでした。予想自体は中高生でも理解できそうな内容なのに証明は非常に高度で難解でさまざまな分野にまたがる数学が必要だという、壮大な話でした。

 

written by k

 

大学を知ろう!文系編-法学部編

大学を知ろう、文系編は学部ごとの紹介をします。

理系編はこちら

理系-理学部はこちら

 

文系-経済学部はこちら

 

 

今回は、一般に「弁護士を目指す人が入る学部」と認識されている法学部の紹介となります。こちらも普段数学記事を書いているkの同級生から紹介コメントをいただきました。

以下、いただいたコメントです。

 

はじめまして!東京大学大学院 法学政治学研究科 法曹養成専攻 2年のそらいとです!
今回は、法学部についてご紹介します。


法学とは?

社会のルールである法を学び、研究する学問です。「六法」と呼ばれる憲法民法・商法・民事訴訟法・刑法・刑事訴訟法の講義が主に設置されており、憲法民法・刑法が必修科目に指定されている場合がほとんどです。この他、行政法国際法など、多様な法律を学ぶことができます。法学部といっても、法曹三者(裁判官・検察官・弁護士)や官僚を目指す人の割合は多くなく、一般企業に就職する学生が多数を占めます。なぜ社会にはこのルールが存在するのか?このルールはどんなときに適用されるのか?といった知的好奇心が原動力となる学問です。
なお、法学部には政治学科が設置されている場合があります。政治学科では、政治の仕組みや歴史等について学び、研究します。

以下、六法それぞれについて簡単にご紹介します。

憲法

憲法は、最高法規であり、これに反する法律は無効です。最も大きな特徴は、国に対するルールであるということ。「法律」と聞くと、国民を縛るルールというイメージが湧きがちですが、憲法は、国家権力の濫用を防止し、国民の権利・自由を保護するためのルールです。司法試験では、架空の法律が憲法に反するかどうかを検討する問題が頻出です。

民法

民法は、私人と私人との間の法律関係を定めたルールです。例えば、コンビニでお菓子を買う行為は民法555条の売買契約にあたりますし、これによって、民法206条の定める所有権を得ることになります。また、結婚や相続も、民法で定められています。このように、民法は、日常の様々な場面で関係してきます。司法試験では、誰が誰に対してどのような権利・義務を有すのかを検討する問題が頻出です。

商法

商法は、私人と商人・商人と商人の間の法律関係を定めたルールです。商人は、私人とは異なり商売のプロであるため、民法のルールを修正するものとして、商法が存在します。 2006年に、商法の中で定められていた会社に関するルールが、「会社法」として独立しました。会社法では、会社の設立方法や意思決定の方法、役員の責任などのルールが定められています。

民事訴訟

民事訴訟法は、民事裁判の手続を定めたルールです。例えば、AさんがBさんを車で轢いて怪我を負わせた場合、BさんはAさんに対して、不法行為に基づく損害賠償請求権(民法709条)を有することになります。この権利を実現するために、どの裁判所に提訴すれば良いのか、裁判所はどのように審理すべきか......といった手続を定めているのが、民事訴訟法です。

刑法

刑法は、罪と罰を定めたルールです。どのような行為をすると、どのような罪が成立し、どのような罰が科せられるのかを定めてします。例えば、人を殺すと殺人罪が成立し、死刑又は無期若しくは5年以上の懲役に処せられます(刑法199条)。
司法試験では、どの行為にどの罪が成立するのかを検討する問題が頻出です。

刑事訴訟法

刑事訴訟法は、刑事裁判の手続を定めたルールです。殺人事件が発生した際に、どのように事件を捜査し、被疑者を逮捕し、裁判所に起訴して、審理を進めるのか......といった手続を定めています。
司法試験では、捜査の適法性や、証拠能力の有無を検討する問題が頻出です。


法学部に向いている人

柔軟な発想ができる人
想像力が豊かな人


中高のうちからこんなことに気を付けて勉強しよう

政治経済の授業を真面目に受けよう!
ルールが存在する理由を考えよう!

 

 

以上、法学部の紹介コメントでした。分かりやすく簡潔な説明をありがとうございました。

さて、今回コメントを書いていただいたそらいとさんは刑法ポーカーというカードゲームを考案しています。

刑法ポーカー遊びながら刑法を学べるというコンセプトのカードゲームで、2020年4月25日よりAmazonで手に入れることができます。こちらもよろしくお願いします。

刑法ポーカー[第2版]

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  • メディア: おもちゃ&ホビー

また、彼はTwitterでフォロワー数1万をこえる有名人です。興味があればぜひ覗いてみてください。

 

法学部の紹介コメント:そらいと

編集:k

 

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