【数学小話】無限と有限のお話②
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第二回は、前回のゼノンのパラドックスの解決と、無限の種類について説明します。
前回はこちら
前回ご紹介したゼノンのパラドックスですが、現実で亀を追い抜かすことはできますから、当然この話はどこかが間違っているはずです。
話を簡単にするために、「アキレスと亀」の前に次のような問題を考えてみます。
矢は的に当たらない
的から1m離れたところに立ち、的に向かって矢を放ちます。
矢は的に向かっていきますから、的まであと1/2mとなる瞬間があります。(点A)
そののち、的まであと1/4mとなる瞬間があります。(点B)
そののち、的まであと1/8mとなる瞬間があります。(点C)
そののち、的まであと1/16mとなる瞬間があります。(点D)
これを繰り返していくと、矢は限りなく的に近づいていきますが、的に命中することはありません。
この話もおかしいはずです。なぜなら実際に矢は的に当たるからです。当たり前ですよね。ですが、この話を論理的に反論するのはなかなか難しいです。
矢と的までの距離が次々と1/2になっていきますが、いくら繰り返してもあくまで0にはならない。これが「矢は的に当たらない」の主張することです。
この話が解決できない理由、それはずばり「無限回の操作には無限の時間がかかると錯覚している点」です。
分かりづらいかもしれませんが言い換えれば、無限に積み重ねても有限の値に収まるとも言えます。
上で述べた矢と的の例でも、それぞれの点までに矢が進んだ距離を足していくと1/2+1/4+1/8+1/16+...となりますが、無限に多く足していくと、やがて1に近づくのです。このように、無限に多くの数を足してもその和が無限にならず、有限の数字に収まることがあるのです。
よって、この「矢は的に当たらない」は次のように解釈すればよいのです。
矢は的まで1/2m、1/4m、1/8m、1/16m、...と、無限個の点を有限の時間で通り終え、的に到達する。
「無限個の点を有限の時間で通り終えることは可能か?」と聞かれたら、1/2+1/4+1/8+...が1を超えないのと同様のことだといえばよいです。
矢の速さが秒速amなら、1/2m飛ぶのに(1/2)a秒、1/4m飛ぶのに(1/4)a秒、...となるので、1/2m,1/4m,1/8m,...の無限に多くの点を通るのにかかる時間は(1/2)a+(1/4)a+(1/8)a+...=a(1/2+1/4+1/8+...)つまりa×(1を超えない数字)である。つまり、無限個の点を有限の時間で通るり終える。
アキレスと亀の話も、それぞれ区切った期間ごとに経つ時間を足していくと有限の数字に収まる、と説明すればよいのです。
つまり、「アキレスが亀のいた地点に行く→その間に亀がほんの少し前に進む」これが無限回繰り返されるわけですが、その無限回の作業が有限の時間で終わると説明すればよいのです。
数直線を書いてください。数直線の0から1の間に点はどれだけありますか?無限にありますよね。では指を数直線の0から1へスライドさせてみて下さい。あなたの指は無限の点を有限の時間で通り抜けましたね。
無限の種類
自然数はどれくらいありますか?無限にあります。
整数はどれくらいですか?無限にあります。
有理数(p/qという形で表される数字)は?無限にあります。
素数も無限にあります。
さて、自然数と整数だとどちらが多いのでしょうか。
自然数は整数のうち0以下を除いたものなので、整数の方が多いと思うでしょう。違います。
そもそもどちらが多いかどうかについて考えるとき、両者の個数が有限であれば、その個数の数字の大きい方が多いです。10個と20個、どちらが多いかというと20個です。これはごく普通のことですよね。
しかし、比べようとする両者とも無限に多くの要素を含むものであるとき、個数というものが考えられないので個数で比べられません。
ちなみに、無限に多くに要素を含む集合の"個数"を、濃度と言います。(数学用語です)
ここでは無限に多い集合の個数の比較について詳しく言いません(次回で話すかもしれません。)が、いくつかの割と親しみのある無限に多い要素を持つ集合の濃度の大小について紹介しておきます。
{自然数、整数、奇数、有理数、2の倍数、nの倍数(nは自然数)、素数、フィボナッチ数}
これれらはすべて同じだけ存在します。(濃度が同じ)
これらそれぞれより多く存在することが分かっている集合の例は、
無理数(√2、πなど)、超越数、0より大きく1より小さい実数の集合、実数
などがあります。
じつは、
0より大きく1より小さい実数と全ての実数は同じだけ存在します。
(同じだけあることが証明できます。)
無限というものは非常に奥が深い世界です。次回はさらに無限の性質に迫っていきます。
written by k