【数学小話】入試問題の背景に隠れる大学数学①
入試問題には、大学数学の内容を高校数学に持ってきたかのような問題がたまに見られます。もちろん、受験生が大学数学の背景を知っている必要は全くありませんが、せっかくなので見ていきましょう。受験勉強の息抜きにでも見ていってください。
第一回 この記事
第二回 こちら
第三回 こちら
初回は数Ⅲの演習レベルの問題から。
問題
(1) のとき、を示せ。
(2) のとき、を示せ。
解答
(1) とする。
よりだから、は単調増加する。
さらによりでだから、は単調増加する。
また、よりで
したがって
(2) (1)と同様。
背景
大学数学の微積の範囲で、テイラー展開、マクローリン展開というものを習います。これはいわば関数を多項式で近似することです。関数をx=0を中心に近似するものがマクローリン展開で、他の一般の点のまわりの近似をテイラー展開といいます。よく知られているマクローリン展開の結果は以下があります。
関数を近似するとは何でしょうか。以下のグラフを見てみましょう。*1
x軸付近の黒曲線がsinxです。上に書いたsinxのマクローリン展開の式
において、右辺の項を伸ばせば伸ばすほど、そのグラフはsinxに近づいていきます。
が赤線
がオレンジ
が黄色
が黄緑色
…
という風に、項を増やせば増やすほど、グラフはsinxに近づいていきます。そして、項を増やせば増やすほどx=0から離れた場所でもグラフが近づいていき、その極限はsinxになります。
今回取り上げた問題の関数は、このマクローリン展開の式を途中で切ったものだったのです。つまり、何の脈略もなく出てきた関数ではなく、理論的に重要な関数だったのです。
やの式の最後にxの範囲が書いてありますが、これは無限和が収束する範囲のことで、この範囲でないと無限和が一致しません。簡単にいえば、その範囲ならこの式が成り立つ、ということです。
大学数学の微積では、極限や無限和などについての扱いを根本から見つめなおすことをします。理論の厳密性をさらに追い求めるわけです。
例えば極限において、「hを限りなく0に近づける」とはどういうことか?数学的に厳密な言葉とは言えませんよね。0に近づける方法によらないのでしょうか。どんな近づけ方をしてもいいのか。こういったことを大学数学でまず学ぶことになります。
written by k
【数学小話】2021が入るピタゴラス数を見つけてみる
あけましておめでとうございます。2021年もどうにかブログを続けようと思います。今年もよろしくお願いします。
2021は43×47と素因数分解できることは有名でしょう。高校入試に出てもおかしくないレベルです。
2021=2025-4=452-22=(45+2)×(45-2)=47×43
さて、2021年最初の遊びとして、2021が入るピタゴラス数を見つける遊びをしてみます。
ピタゴラス数とは、
を満たす自然数の組
のことを言います。直角三角形の3辺の長さになりますね。
では、この組の3つの数のうちどれか1つが2021になるものを出来るだけたくさん見つけてみましょう。
問題
を満たす自然数の組で、
のいずれかが2021であるようなものを全て求めよ。
この問題を考えるにあたって、使える道具をいくつか見てみます。
ピタゴラス数の基本的事項
①(a,b,c)の3つの数の最大公約数が1であるとき、原始ピタゴラス数と呼ぶ。
例えば、(3,4,5)とか(5,12,13)は原始ピタゴラス数ですが、(6,8,10)は違います。
この(6,8,10)は、(3,4,5)の3数を2倍しているものです。
②(a,b,c)がピタゴラス数の時、それらを適当にn倍した組(na,nb,nc)もピタゴラス数である。(nは自然数)
であるとき、
より、(na,nb,nc)もピタゴラス数です。
この性質②より、ピタゴラス数は無限に存在することがいえます。ピタゴラス数は、原始ピタゴラス数と、それらを適当にn倍したものからなるわけです。
(または)
と表すことが出来る。
つまり、全ての原始ピタゴラス数はこの形で書けます。証明は面倒なので省略。
例えば、(3,4,5)はm=2,n=1であり、(5,12,13)はn=3,m=2です。
mとnを互いに素でないものとすれば原始でないピタゴラス数が作れますが、全ての原始でないピタゴラス数を作れるわけではありません。
④原始ピタゴラス数(a,b,c)は、a,bは一方が奇数で他方は偶数で、cは奇数である。
かなり重要な性質です。
a,bが共に偶数なら自動的にcも偶数となり、それは原始ピタゴラス数でなくなります。また、a,bが共に奇数になりえないことは中学レベルで示せます。
では、これらの道具を使って、2021が入るピタゴラス数を見つけてみましょう。
原始ピタゴラス数を探す
2021が入る原始ピタゴラス数を探します。2021は奇数なので、aかbが2021になる可能性と、cが2021になる可能性に分けて考えます。
まずaかbが2021になる可能性について。原始ピタゴラス数は
と書けますが、は偶数、2021は奇数なので、
となります。この式を満たすの自然数の組を見つけます。整数問題の鉄則、因数分解を使って、
となり、は自然数よりの方が大きいから、
または
①の時、
②の時、
これらをそれぞれに入れれば、
①(2021,2042220,2042221)
②(2021,180,2029)
2組見つかりました。
次にcが2021になる場合について。
となるの自然数の組を見つけます。mod5で考えると、nを自然数として、
であり、だから、をmod5で考えると片方は0,もう片方は1と合同です。したがって、m,nの片方は5の倍数です。mを5の倍数とすればm=5,10,15,20,25,30,35,40しかありえません。
にそれらを順に代入して、nが整数になるかチェックすると、ないことが確認できます。すなわち、
となるの自然数の組は存在しません。
以上より、2021が入る原始ピタゴラス数は次の2組だけです。
(2021,2042220,2042221)
(180,2021,2029)
原始でないピタゴラス数を探す
原始でないピタゴラス数は、原始ピタゴラス数を適当にn倍したものです。2021=47×43ですから、考えられるのは、
①43が入るピタゴラス数を47倍して作る
②47が入るピタゴラス数を43倍して作る
ここで、43も47も素数ですから、43か47が入るピタゴラス数は必ず原始ピタゴラス数です。(最大公約数が1か43,47にしかなりえないが、最大公約数が43,47となるものはありえないことが分かる)
①も②も、やることは先ほどの2021が入る原始ピタゴラス数を求める手順と変わりません。よって、結果のみを書きます。
①(43,924,925)
②(47,1104,1105)
より、これらを順に47倍、43倍して、
①(2021,43428,43475)
②(2021,47472,47515)
以上で、全ての組が見つかりました。
(180,2021,2029), (2021,43428,43475), (2021,47472,47515), (2021,2042220,2042221)
これで、2021が入るピタゴラス数が分かりました。この手順を踏襲すれば一般的に好きな自然数が入るピタゴラス数を作ることが出来ることも示せますね。
ただし2が入るピタゴラス数は存在しないことには注意。
未解決問題
2より大きい自然数nについて、nが入るピタゴラス数の組の数はどうやって求められるか?
例えば、2021のように異なる2つの奇素数の積で表される数は必ず4組かというと、そうとも限りません。
85=5×17は上でやっていた手順で見つかる4組に加えて、となるがあり、もう1組見つかります。()ただ、少なくとも素因数分解をした時に現れる素数と、見つかる組の個数はある関係していることは予想されます。
上でやっていた手順を一般化して、相異なるn個の奇素数の積で表される数が入る組は少なくとも個であることは分かります。(ぜひ考えてみて下さい)
実は、大学数学の知識を使えば、4m+3と書ける素数の積だけで構成される自然数は、ちょうど個であることが言え、4m+1型の素数が入ればそれだけ組が増えます。
では、同じ素因数を持つ場合は?2を素因数に持つ場合は?
こういったことをぜひ考えてみて下さい。
written by k
中学生でも解ける大学入試数学78★★ 2019年数オリ予選
数オリの過去問から、お手軽な整数問題を一つ。
問題
★★
どの桁も素数であるような自然数を良い数という。3桁の良い数であって、2乗すると5桁の良い数になるものを全て求めよ。
ヒント、着眼点
ここでの良い数というのはこの問題だけの呼び方であり、別によく知られている数学の概念ではありません。
考える対象は3桁の良い数。それぞれの桁に自由に素数を入れられるとすると、2,3,5,7のどれかを入れることになります。4×4×4=64通り全て計算してみる、なんて解き方は当然人間にはできません。2乗すると5桁の数になる、という点から候補を絞り込むことを考えてみましょう。
以下、解答
解答
235
解説
3桁の良い数は一番小さいもので222、一番大きいもので777ですが、2乗して5桁になる、という点から大きすぎるものは答えの候補から外れるのではないかと考えます。実際、400×400=160000と、400の時点で2乗して6桁になってしまいます。
2乗して5桁になる整数の上限はいくつだろう、ということを調べます。例えば、次のような考え方が可能です。
となるを大まかに求める。
で、は3.1と3.2の間。(3.1×3.1=9.61、3.2×3.2=10.24)
よって少なくとも考えるべき整数は320未満だし、良い数に限定すれば277以下。(300台の良い数は最小でも322)
ということで、考えるべき数は200台の良い数だけでよいと分かりました。これで候補の数は十の位と一の位に2,3,5,7のいずれかを入れるから16通り。もう少し絞りこみましょう。
次は一の位に注目します。3桁の良い数を2乗した時に出来る、5桁の良い数の一の位は、もとの一の位の数のみで決まります。一の位の数が2,3,5,7で実際にどうなるかやってみます。
もとの数が〇〇2なら2乗すると〇〇〇〇4で、良い数でなくなります。以下同様にやってみると、
〇〇3なら〇〇〇〇9で、良い数でない
〇〇5なら〇〇〇〇5で、良い数かもしれない
〇〇7なら〇〇〇〇9で、良い数でない
よって、一の位の数は5でなければならないことが分かります。これで候補は225,235,255,275の4つしかありません。ここまで来たら3桁の整数の2乗を4回やって、良い数かどうかチェックすればよいでしょう。
よって答えは235。
今回は候補の絞り込みについて学べる良い問題でした。
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