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【数学小話】3×4と4×3は違うのか③ あみだくじで掛け算をしよう

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前回、前々回はこちら

http://hibiyastudy.hatenablog.com/entry/math/order/01

http://hibiyastudy.hatenablog.com/entry/math/order/02

 

 

今回は、前回にお話しした、「掛け算の本質」について、より掘り下げてみようと思います。タイトルにもありますが、あみだくじで数学が登場し、「掛け算」なるものを考えることができます。

 

 

まず、「掛け算とは何か」をおさらいしておきます。大学でならう「積とはなにか」について、これは中学生向けに文章をかなり変えたものです。

ある数のグループを考え、a,b,cをその中の数、⊗を何らかの計算をする記号とする。

1. (a⊗b)⊗c=a⊗(b⊗c)

2. a⊗1=1⊗a=a

3. どんなaにも、a⊗b=1となるbがある

この3つの条件を満たすような計算⊗を(その数のグループにおける1つの)「積」と呼ぶ。

掛け算の本質は、この3つの性質を満たすような操作であると前回述べました。今回はその性質を満たす例として、あみだくじを挙げてみます。

 

今回は簡単のため、縦の線が3本のあみだくじを考えます。

そして、3本の縦線の上端と下端に、左から1,2,3と名前を付けます。

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このような下準備のもと、上端のそれぞれの番号が下端のどの番号に向かうかを考えます。

今回はまず上端の1が下端の3に、2は2に、3は1に向かいます。

それを(321)と書くことにします。1から3の行先を順番に並べるだけです。

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今回はどうなるかというと、1が2に、2が3に、3が1に行くので、(231)となります。

 

ここからどうやって掛け算になるかというと、あみだくじどうしを組み合わせる行為が掛け算になります

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(213)と(132)のあみだくじを並べました。ここで、左のあみだくじの下に右のあみだくじをつなげることをします。すると次のあみだくじができるはずです。

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(312)のあみだくじができました。これを、数学の式っぽく、こう書くことにしましょう。

(213)×(132)=(312)

つまり、あみだくじの世界における掛け算、A×Bというのは、Aのあみだくじの下にBのあみだくじをつなげて、新しく1つのあみだくじを作ることを意味する、と思えばよいのです。

 

「これが本当に掛け算なのか?」とお思いの方はたくさんいらっしゃるかと思います。そこで、あの3つの条件を満たしているかをチェックします。

1. (a×b)×c=a×(b×c)

1. 3つのあみだくじa,b,cを用意します。(a×b)×cというのはaの下にbをつなげ、それにcをつなげるという意味で、a×(b×c)は、bの下にcをつなげ、それをaの下につなげるという意味です。厳密な証明は少々ややこしいので、ここでは成り立つ一例を紹介するにとどめておきます。

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この画像を見れば、どうやら(a×b)×cとa×(b×c)が同じになるようだと納得してもらえるでしょうか。

2. a×1=1×a=a

掛け算における「1」というのは、「それを掛けても何の変化もない数」という役割を持っているので、このあみだくじの世界における「1」は、これです。

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これをあみだくじの上につけても、下につけてもあみだくじの結果は決して変わりません。当然ですね。

3. どんなaにも、a×b=1となるbがある

この条件が何を意味するかというと、「好きなあみだくじaを持ってきたとき、なんらかのあみだくじbを持ってきて上下にくっつけることで、1のあみだくじと同等にできる」という意味です。これは、よくよく考えると自分自身を上下逆にしたものをつなげると、できたあみだくじは1のあみだくじと同等になるはずです。

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このa,b,c 3つのあみだくじに対し、自身の上下逆バージョンをつなげたらそれぞれが1と等しくなっていることがわかります。どのあみだくじも1は1に、2は2に、3は3に行くようなものになっています。

 

 

ということで、3つの条件を満たしていることが確認できたので、あみだくじをつなげるという操作は積になるのです。

 

 

さて、ここまでお読みになった皆さんなら、あみだくじの世界における掛け算が可換か非可換、もうお分かりですよね。

 

(可換か非可換か、つまり掛け算の順序を逆にしても結果が同じかどうか、が分からない時は、a=(213),b=(132)として、abとbaを、それぞれのあみだくじを書きながら求めてみてください。)

 

 

 

最後にもう少し難しい話を。

1から3までの行先は、次の6通りあります。

(123) (132) (213) (231) (312) (321)

これらに相当するあみだくじは以下の通りになります。

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棒がないものを1、1と2に棒を引くものをA、2と3に棒を引くものをBとすると、

残り3つのあみだくじはAとBの積で表すことができます。

この棒が1つしかないAとBの組み合わせだけで全てのあみだくじを作ることができることから、3本のあみだくじの世界において、AとBは素数の役割を担っているのです。

(321)がABAまたはBABと、2通りで表すことができることも興味深いです。

あたえられたあみだくじを最小本数で表す方法が1通りでないということは、この世界において素因数分解の一意性はないということになります。これも奇妙ですね。

 

また、今回のような、ものを並びかえる行為の性質について、大学以降の数学では対称群と呼ばれるもので研究されています。EDBACFという並びからABCDEFという並びにするには最低で何手かかるのか、といったことが数学的に研究、計算、解析できるのです。

今回はその一つの例としてあみだくじをご紹介しました。

 

 

 

written by k

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