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【数学小話】病的な数学⑦ シェルピンスキーのギャスケット

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前回はなかなか難しい話題でした。今回は前回より少しとっつきやすい話題、フラクタル図形についていくつか見てみます。後で述べますが、有名なシェルピンスキーのギャスケットと呼ばれる図形は"およそ1.58次元の図形"と言うことが出来ます。そんな話について。

 

 

シェルピンスキーのギャスケット

シェルピンスキーのギャスケットは次のようにして構成させる図形です。前回と同じく無限に繰り返して出来たものがシェルピンスキーのギャスケットです。無限に繰り返した図は描けないですが、有限回で止めたものを描くことでだいたい想像することは出来ます。

①正三角形を用意する。

②各辺の中点を結んで出来る小さい正三角形を取り除く。

③出来た図形はいくつかの正三角形が繋がったものとなるので、それぞれの正三角形に対して②と同じことをする。これを無限に繰り返す。

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無限に繰り返して出来たものがシェルピンスキーのギャスケットです。

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(この図もあくまで有限回で止めたものなので、実際のシェルピンスキーのギャスケットの図ではありません。*1

これはフラクタル図形の一つで、普通の図形では考えられないような性質を持ちます。例えば、

①シェルピンスキーのギャスケットの上の一部を取り出して、それを2倍に拡大すると元通りになる。(シェルピンスキーのギャスケットと、その上だけを取り出したものは全く同じ図形である!)このような性質を自己相似と言います。

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シェルピンスキーのギャスケットを作るときの一番最初の正三角形の面積を1としましょう。中心の正三角形を切り取る、という操作をするたびに、この図形の面積は\frac{3}{4}倍になります。

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従って、step nの図形の面積は(\frac{3}{4})^nと書けます。ということは、シェルピンスキーのギャスケットは無限回繰り返したものですから、n→∞とすると(\frac{3}{4})^n\rightarrow0ですから、シェルピンスキーのギャスケットは面積が0の図形なのです。

対して、周の長さはstepを1つ進めるごとに3倍になります。ということは。シェルピンスキーのギャスケットは周の長さが無限の図形なのです。

有限回のstepの図からは、これらの性質は想像しにくいでしょう。直感に反する、病的な例と言えます。

フラクタル図形の次元

実は、シェルピンスキーのギャスケットは2次元の図形と言ってよいのか、という議論があります。平面図形、2次元の図形の相似は中学校で習います。相似な平面図形について、相似比を2倍にすると面積は4倍、相似比を3倍にすると面積は9倍、となりました。また、立体図形、3次元の図形については、相似比を2倍にすると体積は8倍、3倍にすると体積は27倍、となります。

逆に、2次元の図形であれば2倍に拡大したものは元の図形の4個分であって欲しい、と捉えることができます。ではシェルピンスキーのギャスケットはどうでしょうか。

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同じ図をもう一度貼りました。2倍に拡大したもの(図中の左)は、もとの図形(図中の右)3個分であることが見て分かります。つまり、2倍に拡大すると元の図形の3個分になる、ということです。これは2次元の図形と言いにくそうです。そもそも面積が0ですし。

そこで、このようなフラクタル図形にうまく使えそうな、次元を求める公式が考えられました。ハウスドルフ次元と呼ばれるものです。(当然、普通の図形でやっても既存の結果と一致する公式なので、普通の図形で考えていた次元という概念をこのようなフラクタル図形にも"論理的に整合性を持つように"拡張したということです。普通の図形というのは、このフラクタル図形などでなく、教科書に出てくるような"平凡な、ありふれた図形"のことです。正三角形も正百角形も有限個の図形を組み合わせたものも普通の図形です)

 

 

ハウスドルフ次元

図形Xをa倍に拡大したものは元の図形Xのb個分であるとき、図形Xのハウスドルフ次元は

\log_a{b}=\dfrac{\log_e{b}}{\log_e{a}}(ただし、eは自然対数の底

 

と定義されます。logは高2の数学Bで習います。logについて簡単に述べると、
\log_a{b}は「aを何乗するとbになるか」の値を表すものです。計算の具体例を見てみます。

 

・普通の平面図形では2倍に拡大すると4個分(の面積)になります。ということは、
\log_2{4}=2で、普通の平面図形のハウスドルフ次元は2です。(2は2乗すると4になるから\log_2{4}=2

・普通の立体図形では2倍に拡大すると8個分(の体積)になります。ということは、
\log_2{8}=3で、普通の立体図形のハウスドルフ次元は3です。(2は3乗すると8になるから\log_2{8}=3

では、シェルピンスキーのギャスケットはハウスドルフ次元いくつかというと、2倍に拡大すると3個分になるので、
\log_2{3}=1.58\dots

です。これで、シェルピンスキーのギャスケットはおよそ1.58次元と言われる理由が分かりました。

 

有名なフラクタル図形

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メンガーのスポンジ。ハウスドルフ次元は\log_3{20}=2.73\dots

 

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コッホ曲線。 ハウスドルフ次元は\log_3{4}=1.26\dots。雪の結晶のようで美しい。

 

youtu.be

マンデルブロ集合。動画はある場所を拡大し続けた様子。5分程度。複素平面上のある漸化式からなる複素数列が発散する初期値をグラフにしたもの。色によって発散するスピードを表している。さまざまな場所を拡大するとさまざまなフラクタル図形が現れる。

 

フラクタル図形の実用

フラクタル図形、特に自己相似は、自分自身の一部が全体と同じ形をしている、という性質でした。

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ロマネスコブロッコリー(Romanesco Broccoli)*2

海岸線や植物、雲など、フラクタル図形に近い構造をしているものは自然界にたくさんあります。これらの図形を解析するために、フラクタルの側面からの研究されています。雲の発達する様子、煙が拡散する様子、海岸線の長さの測定など、かなり現実世界に応用されています。フラクタルはまだまだ数学でも研究途中の分野で分かっていないことが多いです。

フラクタル図形はとてもバリエーションが豊富で、全てのフラクタル図形を特徴づけるような「こういうものをフラクタル図形という」という数学の厳密な定義がまだ見つかっていません。実は、ハウスドルフ次元も万能ではなく、次元の定義も完璧ではありません。

 

written by k

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