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【数学小話】速く歩いた方が雨に濡れないのか

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今年の夏は強い台風が日本を襲ったり、北海道には地震が発生したりという、なんともおぞましい夏でした。そんな夏、筆者は家の近くの図書館に借りた本を返すために雨の中歩いていたら、リュックが半開きだったために本が濡れてしまい、弁償する羽目になってしまいましたとさ。

 

さて、傘を忘れたとき、濡れながら帰らないといけない場面において、誰もが「なるべく濡れたくない」と思うものです。雨の中をなるべく濡れずに進むためには、速く歩いたほうが(または走った方が)良いのでしょうか。速く歩けば、雨の中にさらされる時間は減りますが、短い時間でより多くの雨に当たるはずです。もしかしたら、速く歩く分だけ当たる雨の量が増えて、結果的に速く歩いても遅く歩いても変わらないのかもしれません。せっかくなので数学の問題としてモデルを作って考察してみましょう。

 

 

・モデル化

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正面の面積がS1[m²]、上面の面積がS2[m²]である直方体がx軸上を速さv[m/s]で等速直線運動するとします。雨はz軸と平行に速さv'[m/s]で降るとし、単位体積当たりの雨の密度をρ[個/m³]とします。直方体が1秒間移動した時の正面と上面に当たる雨粒の個数を計算します。

まずは、1秒間に当たる雨粒の個数をvやv'で表したあと、速く歩くべきかそうでないかの検証に移りたいと思います。

今回は、理系の高3レベルの数学の紹介として積分で求める方法と、小学生でも理解できる逆転の発想で求める方法の2つの方法で求めてみます。

 

 ・積分で求める方法

 これは理系の高3レベルの知識が少し要求されます。さらっと流して読んでもらえればと思います。

積分的により求める時のイメージは「ごく短い時間に当たる雨粒を求め、それを0秒から始めて1秒まで何回も繰り返し積み重ねる」です。

まず、tを0から1にとり、微小時間Δtだけ経過した場合を考えます。この時、ごくごくわずかな時間しか経過していないので、その間に直方体に当たる雨は、次の図で示された、オレンジの斜線部の範囲にあるとおおまかにみなせます。

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y軸と平行な向きで直方体を見ています。t+Δtにおける直方体の正面の前にできたオレンジの長方形が正面に当たる雨粒の範囲、上面の上にできた長方形が上面に当たる雨粒の範囲です。「長方形が動く間に雨も動くのだから、本当の雨粒の範囲は違う形になるだろ」と思うかもしれませんが、Δtはごくごく短い時間なので、この画像で示された範囲にあるとみなすことができるのです。

ということで、Δtの間に当たる雨粒の個数は(S1v+S2v')ρΔt 個なので、あとはこれをtで0から1まで積分すれば1秒間に当たる雨粒の個数が求められます。

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 こうして、1秒間に当たる雨粒の個数は(S1v+S2v')ρと求められました。

 

・逆転の発想で求める方法

 移動する物体に当たる雨粒の個数を計算するのが難しそうに見えるのは、直方体と雨の2つのものが動いているからです。そこで、速さV'で落下する雨を止めて、代わりに直方体が進む道が速さv'で上がると考えてみます。雨が降るのではなく、こっちからあたりに行くイメージです。そうすれば、直方体の正面と上面が通った範囲に存在する雨の個数を数えればよいことになります。

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1秒間に直方体は横にv、上にv'だけ進むので、 濃いオレンジの平行四辺形の面積は、S1v、薄いオレンジの平行四辺形の面積はS2v'となります。よって、この範囲にある雨粒の個数は、(S1v+S2v')ρとなります。

 

・歩く速さを変えたときの雨粒の個数

1秒間に当たる雨粒の個数は(S1v+S2v')ρ個

 どちらの方法で求めても、同じ答えなりました。では、同じ道を歩く速さを変えたらどうなるのか考察してみましょう。

一般的な歩く速さはだいたい秒速1~2m、走る速さは秒速3~5mなので、今回は歩きを秒速1m、走りは秒速4mとしましょう。では、100mの道を用意して計算してみましょう。

歩きだと100秒、走りで25秒かかります。それぞれの場合での当たる雨粒の個数を求めましょう。

・歩きの場合

歩く速さ:秒速1m かかる時間:100秒

(S1×1+S2v')ρ×100=100S1+100S2v'

・走りの場合

走る速さ:秒速4m かかる時間:25秒

(S1×4+S2v')ρ×25=100S1+25S2v'

100S2v'と25S2v'を比べれば、走りの場合の方が値が小さいことが分かるので、結果として、走りの方が濡れないということになりました。

 

・考察

歩きと走りの式を見比べると1つめの項は100S1で一致しています。これは、正面に当たる雨粒の個数は同じということを意味しています。そして、上面に当たる雨粒の個数に差が出ることも分かりました。このことから、

雨の中を進む時、正面、つまり顔やおなかに当たる雨の量は進む速さにかかわらず一定。頭に当たる雨の量は雨の中にいる時間が短いほど少ない。よって速ければ速いほど濡れない

という結果が得られました。

 

 

今回は直接空から降ってきて当たる雨のみを考えました。地面に当たってはねた雨粒など、間接的に当たる雨粒は考慮していません。速く走れば走るほど地面からはねて当たる雨粒が増える可能性もあります。あくまで上からの雨粒は走った方が少ない、という結果が得られただけです。もし風が吹いていたら、もし水たまりを避けるために直線からそれたコースを進むことになったら、濡れ方はどうなるか、などについては、ぜひ皆さんも考えてみてください。私は、これらの状況を考えても速く進んだほうが得かなと思います。

 

 

 

・追加考察 濡れない体勢

走って移動する時、必ず人は前傾姿勢をとります。その姿勢によっては体の正面に当たる雨がさらに減ることがあります。ではどれくらい体を前に傾けると一番濡れずに済むのでしょうか。

速さvで走っている人が雨を見ると、斜め後ろに雨が進んでいるように見えます。その雨の傾きの角度を求め、それと体を平行にすれば、最も濡れない体勢となります。

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雨の降る速さは、だいたい秒速2~8mで、粒が大きいほど速くなるそうです。 *1

先ほど走る速さは秒速4mとしたので、これで図中のθを求められます。

細かい雨の時 θ=tan-1(4/2.2)=61°

弱い雨の時 θ=tan-1(4/6.2)=33°

強い雨の時 θ=tan-1(4/8)=27°

強い雨ほど速く落ち、より前傾姿勢をとらなくてよいようです。ただ、霧雨などの時は60°も傾ける必要があるという結果が得られましたが、体を60°も傾けるのは現実的ではないので、霧雨の時はあきらめて濡れる他なさそうです。 

 

 

雨の日に傘を忘れたときは、体を30°くらい前に傾けた姿勢でなるべく速く走りましょう。

 

 

今回は以上です。

 

written by k

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