【数学小話】病的な数学①
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数学を勉強するにあたり、反例を考えるということは非常に重要です。反例を見ることで、「できること」と「できないこと」、「成り立つ場合」と「成り立たない場合」の境界がよりはっきりし、より深い理解が得られます。
この病的な数学というシリーズで、面白い、ためになる(とは限らない?)反例を紹介していきます。
実は、数学で「病的な」という言葉はしばしば使われます。直感に反するような、一種の気持ち悪さを感じるような例に対してつけられる修飾語として用いられます。
初回は、簡単な例をいくつか見つつ、数学のセンスを磨くためのヒントを探ります。
数に対する感覚を磨く
数学が得意な人というのはある程度数に対する感覚が鋭いです。例えば、「この数とこの数を足したらこんな性質(〇で割り切れる、など)をもつ数になるだろう」ということが自然と分かったり、「計算途中でこんな数が出てくるのはおかしい。どこかで計算ミスをしているにちがいない」と気づける力は数学をするうえでとても重要です。ということで、簡単なところから。
① 偶数+偶数は常に偶数か?
② 3の倍数+3の倍数は常に3の倍数か?
③ nの倍数+nの倍数は常にnの倍数か?(nは2以上の整数とします)
はい、これらは全てYesですね。では、これはどうでしょうか?
④ nは2以上の整数とする。a+bがnの倍数であるとき、aもbも必ずnの倍数か?
これはNoです。適切に反例を提示できますか?もし困ったなら、n=3でやってみてください。
このように、「pであるとき、qである」というタイプの文章(高校数学では命題といい、「pならばq」とか「p⇒q」とか書かれます)があったとき、「qであるとき、pか」という逆を考えると、成り立つとは限りません。これは反例を考えるよい練習になります。
「合同な三角形は面積が等しい」ですが、「面積が等しい三角形は合同とは限らない」ですよね。
さて話を戻して、次はこんなことを考えてみましょう。
これはどちらもNoです。自信をもって答えられますか?「なんとなくこっちだろう」と予想するのもいいですが、きっちりと反例を見つけたうえでNoだと答えるのが理想です。
⑤たとえば、x=1+√2、y-2-√2など。もしこの反例を見て「1+√2は無理数なの?」と思った人は要注意。無理数の定義をしっかりと確認しましょう。「なるほど、その手があったか」と思った人は自分のものにして必要な場面でしっかりと出せるように。
⑥x=y=√2でいいですね。こっちの方が楽勝かも?
では次、少し難しくなります。
⑦ 二次方程式 の解の一つが という形で書けるものであるとき、もう一つの解は である。
これは、 が有理数ならYes、どれかに無理数が入っているとNoです。いや、問題文に が何か一切書いていないのがそもそも問題として欠陥なのですがね…Noとなる反例としては、
の解は です。
どうやって作ったかというと、解と係数の関係です。√2と√3が解になる二次方程式を作ろう、と考えればよいわけです。
反例を作るのに、知識をこんな風にうまく活かせる場合があるのですね。
ちなみにこの問題はこちらでより深く掘り下げています。Yesとなる場合の証明などはこちらをご覧ください。
違いをはっきりとさせる
反例を考えることで、違いを明確にすることができます。例えば、
「a=b, b=cのときa=c」は成り立ちますが、
「a≠b, b≠cのときc≠a」
はどうでしょうか?成り立ちません。a=cとなり得るからです。では「a,b,cはどれも違う数である」ということは式でどう書けばよいでしょうか?
三角形の合同条件3つは誰もが覚えさせられます。私は理由のないただの暗記は嫌いだったので、それぞれの合同条件をみながらいくつも具体的な図を描いて、「たしかにこれが成り立つときは合同になりそうだ」と確信しながら自然と身に着けました。その過程で、合同条件の一つに
「二組の辺とその間の角がそれぞれ等しい」
というものがありましたが、
「二組の辺とその間とは限らない一つの角がそれぞれ等しい」
ときは必ず合同にはならないのか、ということをチェックしました。さて、みなさんはどう思いますか?その間とは限らない角にすると合同にならない場合が出てくるのでしょうか?
ここではあえて図は書きません。ぜひ巧妙に反例を作ってみてください。
このように、与えられたものをただ鵜呑みにするのではなく、「なぜその言い回しをしないといけないのか」「なぜその条件が必要なのか」をしっかりと理解するのに、反例は役に立ちます。
一つ条件を除いてみて反例を作れば、「こんな場合が出てきてしまうからあの条件は必要だったんだな」と実感することができます。
ということで初回はここまで。次回からはもっと気持ち悪い例を紹介出来たらなと思います。
written by k