【数学小話】数の歴史③ 虚数の誕生まで
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さて、今回は虚数が誕生するまでの過程をたどります。
2次方程式、3次方程式の解
2次方程式の解の公式は中3で習います。
訂正 上の画像における、「ax2+bx=c」は「ax2+bx+c=0」の間違いです。申し訳ありません。
中学生では根号の中身、b2-4acが負になるときは「解なし」としていました。
かつての数学者もそうしていました。「根号の中身が負になることはありえないこと」だったのです。
さて、16世紀にカルダノという数学者が、ある形で表される3次方程式の解の公式を見つけました。これはカルダノの公式と言われています。
根号の左肩に小さく3とある記号(∛)は3重根といい、3乗したらそれになる数を意味します。
3次方程式なので解は3つあるはずですが、この公式はそのうち1つを与えるものです。
試しに具体的なもので試してみましょう。
計算がとても大変ですが、1つの解がx=3であると分かりました。
さて、同様に別の方程式で試してみます。すると問題が生じます。
x3-7x-6=0
これを解くことを考えてみます。
実はこの方程式の左辺は、(x+2)(x+1)(x-3)と因数分解できます。展開すればそれが正しいことは確認できます。よってこの方程式の解はx=-2,-1,3となります。
ではこれをカルダノの公式に代入します。すると、おかしなことがおきます。
ルートの中が負の数になるので、計算できないことになってしまいます。
ですが、解がx=-2,-1,3であることは確実なので、この画像の一番下の式の値は-2,-1,3のいずれかと等しいはずです。
ということで、「負の平方根は『計算できないもの』として無視するとつじつまが合わなくなる」ということになり、ルートの中身が負である数についても考える必要があるのです。
16世紀ごろは負の平方根は無条件で無視されていましたが、18世紀、オイラー(1707-1783)やガウス(1777-1855)が虚数の基礎を確立しました。
ちなみに虚数というのは、2乗したら負の実数になる数のことです。
2乗したら-1になるものを虚数単位といい、iと書きます。
そして虚数は2i , -4.2iなどと書きます。
ということで、虚数は「3次方程式の解の公式を使うにあたり負の平方根を考えないとつじつまが合わなくなったから生まれたもの」なのです。
この、「いま分かっていることを矛盾なく説明するために新しい概念を導入する必要がある」というのは、まさに科学の発展するさまです。
無理数も虚数もこの点では生まれた背景は同じです。無理数は正方形の対角線、虚数は3次方程式の解の公式、それぞれを表すのに必要だったのです。
ということで、虚数のみを特別「存在しない」というイメージを持って接するのはあまりよいとは思わないのです。
そもそも自然数も分数も「本当に存在しますか?」
1つのリンゴ、3/4リットルの水は見たことあるかもしれませんが、「1そのもの、3/4そのもの」は見たことありますか?ないでしょう。
あくまで数というのは人間が森羅万象を解析するために生み出した概念です。自然界に数が存在するわけではありません。
3回に分けて数の歴史、虚数が生まれるまでをお話しました。
数学の歴史、積み重ねられた理論の精巧さが分かっていただけたら幸いです。
written by k