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【数学小話】1+√2が解なら必ず1-√2も解になる?

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2次方程式の解の公式はこんな形をしていました。

\displaystyle x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}=\frac{-b}{2a}\pm\frac{1}{2a}\sqrt{b^2-4ac}

これを習い、そして2次方程式を解く計算問題をたくさん解いた当時、
二次方程式x=A+B\sqrt{C} と表される数を解に持つとき、かならずx=A-B\sqrt{C} も解にもつのか?」
と疑問に思いました。実際、この予想は正しいです。今回はその証明と、さらに進んで、
方程式が複素数a+bi を解に持つとき、それと共役な複素数a-bi も解である
ということなども見ていきます。

2+\sqrt{5} に対して2-\sqrt{5} のことを共役無理数
2+i に対して2-i のことを共役複素数、などと言います。

注:この記事では、方程式と言えば、a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\dots+a_1x+a_0=0という形をしたもの、つまり「n次方程式」を指します。\sin{x}+2^x=10などといった方程式は考えません。

 

目次

 

 

具体例

問1
方程式x^2-4x+2=0 の解を求めよ。 

 

解1
解の公式を使って、
x=\underline{2\pm\sqrt{2}}

 

 

問2
2次方程式x^2+ax+7=0x=3+\sqrt{2} を解に持つとき、aの値と、もう一つの解を求めよ。

 

解2
与えられた解を代入して、(3+\sqrt{2})^2+a(3+\sqrt{2})+7=0\\(3+\sqrt{2})a=-18-6\sqrt{2}\\\underline{a=-6}
もう一つの解は、x^2-6x+7=0 を解いて、\underline{x=3-\sqrt{2}}

この問題はまさに、最初の予想を彷彿とさせるものです。

 

問3
係数が実数である方程式x^3+ax^2+bx-5=0x=1+2i を解に持つとき、a,bの値と他の解を全て求めよ。

 

解3
解を方程式に代入して、
(1+2i)^3+a(1+2i)^2+b(1+2i)-5=0
これを整理すると、
(-3a+b-16)+(4a+2b-2)i=0 となり、a,bは実数だから
-3a+b-16=0,\ 4a+2b-2=0 であり、この連立方程式を解くと、
\underline{a=-3,\ b=7}

もとの方程式は、
x^3-3x^2+7x-5=0 であり、因数定理を用いて因数分解すると、
(x-1)(x^2-2x+5)=0 となるので、
\underline{x=1,\ 1+2i,\ 1-2i} 

 

これはほんの少しの例ですが、共役な解をもつことは、皆さんも経験的に正しいだろうと感じているはずです。

 

 

 

係数が有理数ならOK

結論からいうと、係数が有理数ならば、予想は成り立ちます。

定理1(共役無理数解の存在)

係数が有理数二次方程式x=A+B\sqrt{C} と表される数を解に持つとき、かならずx=A-B\sqrt{C} も解にもつ。

注: A,B,Cは有理数、B≠0、\sqrt{C}有理数に直せないとします。

 

証明1

有理係数二次方程式ax^2+bx+c=0...①x=A+B\sqrt{C} を解に持つとする。(ただしA, B,Cは有理数、B≠0、\sqrt{C}有理数に直せない) すなわち
f(x)=ax^2+bx+cとするとf(A+B\sqrt{C})=0である。展開して整理すると、

f(A+B\sqrt{C})=0\\a(A+B\sqrt{C})^2+b(A+B\sqrt{C})+c=0\\a(A^2+2AB\sqrt{C}+B^2C)+b(A+B\sqrt{C})+c=0\\(aA^2+aB^2C+bA+c)+(2aAB+bB)\sqrt{C}=0
となる。ここで、\sqrt{C} のみが無理数だから、
aA^2+aB^2C+bA+c=2aAB+bB=0...②

ここで、

f(A-B\sqrt{C})\\=a(A-B\sqrt{C})^2+b(A-B\sqrt{C})+c\\=a(A^2-2AB\sqrt{C}+B^2C)+b(A-B\sqrt{C})+c\\=(aA^2+aB^2C+bA+c)-(2aAB+bB)\sqrt{B}

②より、これは0-0\sqrt{B}となって0に等しい。つまり

f(A-B\sqrt{C})=0
これはx=A-\sqrt{B}も解であることを意味する。

 

文字が多くてややこしいですね。
ax^2+bx+c=0x=A+B\sqrt{C} を代入して整理すると、
P+Q\sqrt{C}=0
という形の式ができます。PもQも有理数だから、これが0に等しくなるには、P=Q=0だ、というのが前半です。
後半は、ax^2+bx+cx=A-B\sqrt{C} を代入して(まだ代入したものが0になるかはわからない)整理すると、
P-Q\sqrt{C}
という形になって、P=Q=0だったからこれは0と等しい。だから解だ。という流れです。

さて、これで、x=A+B\sqrt{C} を解にもつなら共役なx=A-B\sqrt{C} も解にもつことが示されました。そして、これは方程式の次数が上がっても成り立ちます。

定理1' (n次方程式の共役無理数解の存在)

nを自然数とする。有理係数n次方程式
a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\dots+a_1x+a_0=0\\(ただしa_n,\ a_{n-1},\dots,\ a_{0}は全て有理数)
x=A+B\sqrt{C} を解をもつとき、x=A-B\sqrt{C} も解にもつ。
(ただしA,B,Cは有理数、B≠0、\sqrt{C}有理数に直せない)

 

ちょっと大変ですが、証明します。

方針:左辺が必ず有理数係数多項式

\{x-(A+B\sqrt{C})\}\{(x-(A-B\sqrt{C})\}\\=x^2-2Ax+A^2-B^2C


で割り切れることを示す。

証明1'

f(x)=a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\dots+a_1x+a_0 とし、
f(A+B\sqrt{C})=0 ならばf(A-B\sqrt{C})=0 であることを示す。
f(x)x^2-2Ax+A^2-B^2C で割った商をP(x)、余りをax+b とする。

f(x)=(x^2-2Ax+A^2-B^2C)P(x)+ax+b…①


①にx=A+B\sqrt{C} を代入すると、f(x)=x^2-2Ax+A^2-B^2C=0 となるから、 
0=0+a(A+B\sqrt{C})+b\\0=aA+b+aB\sqrt{C}
a,A,b有理数だから、aA+b=0,aB=0B\neq0よりa=b=0
したがって、余りが0に等しいから、f(x)

\{x-(A+\sqrt{B})\}\{(x-(A-\sqrt{B})\}=x^2-2Ax+A^2-B^2C

で割り切れる。

f(x)=\{x-(A+B\sqrt{C})\}\{(x-(A-B\sqrt{C})\}P(x)…①'


①'にx=A-B\sqrt{C} を代入すると右辺は0となり、
f(A-B\sqrt{C})=0
すなわちx=A-B\sqrt{C} も解である。

よって、定理1'は示された。

 

 

 

 

係数が無理数のとき

係数が無理数ならこの限りではありません。

x^2-(\sqrt{2}+\sqrt{3})x+\sqrt{6}=0 の解はx=\sqrt{2},\ \sqrt{3}
x^2-3\sqrt{2}x+4=0 の解はx=\sqrt{2},\ 2\sqrt{2}

 

共役な複素数

さらに高校の範囲に進んで、実数係数方程式が複素数解をもつとき、その共役な複素数も解となります。

 

定理2(共役複素数解の存在)

実数係数n次方程式
a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\dots+a_1x+a_0=0
複素数x=\alpha をもつとき、共役な複素数\overline{\alpha} も解である。

 

証明2

x=\alpha は解だから、
a_n\alpha^n+a_{n-1}\alpha^{n-1}+\dots+a_1\alpha+a_0=0
である。ここで式全体の複素数共役をとると、
\overline{a_n\alpha^n+a_{n-1}\alpha^{n-1}+\dots+a_1\alpha+a_0}=\overline{0}
a_n,\ a_{n-1},\ \dots,\ a_0 は実数だから、
\overline{a_n\alpha^n+a_{n-1}\alpha^{n-1}+\dots+a_1\alpha+a_0}=\overline{0}\\a_n\overline{\alpha^n}+a_{n-1}\overline{\alpha^{n-1}}+\dots+a_1\overline{\alpha}+a_0=0\\a_n\overline{\alpha}^n+a_{n-1}\overline{\alpha}^{n-1}+\dots+a_1\overline{\alpha}+a_0=0
よって、\overline{\alpha} も解である。

 

 

 

係数の範囲からはみ出る解

さて、有理数無理数などの数の包含関係を考えると、以下のようになります。

f:id:hby:20200305133213j:plain

・有理係数方程式の解が無理数解を持つなら、それと共役な無理数も解にもつ。 

・実数係数方程式の解が複素数解をもつなら、共役な複素数も解にもつ。

というのが、今日見てきた内容でした。係数が有理数で、解が有理数からはみ出た無理数なら、共役も解である。係数が実数で、解が実数からはみ出た複素数なら、共役も解である。

なにか法則ありそうですね。では、係数が複素数の方程式で、解が複素数からはみ出るものがあれば、そこで共役のようななにか面白いことがありそうですが、係数が複素数の方程式で、解が複素数でないものは作れません。残念。
このことは大学数学で、複素数代数閉体である、と言われます。

Aが代数閉体であるとは、係数が全てAに属する方程式の解が必ずAに属することをいいます。

したがって、有理数、実数などは代数閉体ではありません。こういった話は数学科の大学2,3年で代数学という科目で習います。これを学ぶと、あの有名な「5次以上の方程式には解の公式が存在しない」ことが証明出来るようになります。


 

 

written by k

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