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【数学小話】cosθ=2 は複素数の範囲内で解ける

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今回の記事は数IIBまでの範囲でぎり理解可能な内容です。できれば数IIIまでの知識を要求します。

今回は複雑な式が多く、すいすい読むのは厳しいかと思われます。ぜひ紙とペンを用意して手を動かしながらお楽しみください。

目的は、\cos{z}=2複素数の範囲内でどう解けるか、そもそも複素数における三角関数とは、を高校生で理解できるように書くことです。
毎回「しーた」と打って変換するのが面倒なのでθの代わりにzを使います。

 

目次

 

高校数学で登場する三角関数sin, cos は、値域は-1以上1以下です。数IIにおける三角関数の定義は以下の通りです。

三角関数の定義

原点を中心とする半径1の円(以下、単位円と書く)上に点Aがあり、直線OAとx軸のなす角をθとしたとき、Aの座標を

(\cos{\theta},\ \sin{\theta})

とする。

f:id:hby:20191004215530j:plain 

sin, cosは違う定義もあります。数Iの三角関数という単元では、180°を超える角度を考えないので直角三角形を使った定義が採用されます。ほかにも半径rの円を使った定義もありえます。今回の単位円を使う定義では、定義から明らかにsin, cosの値が-1から1をはみ出ることはありえません。

そう、定義域が実数ならば。

 

実は、\cos{z}=2 の解は複素数の範囲内に無数に存在します。

複素三角関数

大学の数学で、テイラー展開というものを習います。これは、さまざまな関数の任意の点の近傍(平たく言うと、あるxの近辺)を、微分しやすく扱いやすい
a_0+a_1x+a_2x^2+a_3x^3+\dots
という形の関数に近似するものです。詳しい計算は省きますが、これを使うと、

\displaystyle\sin{x}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}x^{2n+1}=x-\frac{x^3}{3!}+\frac{x^5}{5!}-\frac{x^7}{7!}+\dots①
\displaystyle\cos{x}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n)!}x^{2n}=1-\frac{x^2}{2!}+\frac{x^4}{4!}-\frac{x^6}{6!}+\dots②
\displaystyle e^x=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^{n}}{n!}=1+\frac{x}{1!}+\frac{x^2}{2!}+\frac{x^3}{3!}+\dots...③


という結果が得られます。(これらは任意の実数xについて成り立つ)
この関係式だけは無条件で使えることとして、まずはこれらの式から出発しましょう。複素数の世界における三角関数を定義します。そのためにまず複素指数関数を定義します。

式③のxに、形式的に x=ix を代入します。すると、

\displaystyle e^{ix}\\\displaystyle\ \ \ \ =1+\frac{ix}{1!}+\frac{(ix)^2}{2!}+\frac{(ix)^3}{3!}+\frac{(ix)^4}{4!}+\frac{(ix)^5}{5!}+\frac{(ix)^6}{6!}+\frac{(ix)^7}{7!}+\dots\\\displaystyle\ \ \ \ =1+\frac{ix}{1!}-\frac{x^2}{2!}-\frac{ix^3}{3!}+\frac{x^4}{4!}+\frac{ix^5}{5!}-\frac{x^6}{6!}-\frac{ix^7}{7!}+\dots


ここで、和の順番を入れ替えることを許して実部と虚部に分けると、

\displaystyle(1-\frac{z^2}{2!}+\frac{z^4}{4!}-\frac{z^6}{6!}+\dots\dots)+i(z-\frac{z^3}{3!}+\frac{z^5}{5!}-\frac{z^7}{7!}+\dots)


となりますが、よく見ると、実部と虚部はそれぞれ式①②そのものです。よって、
\LARGE{e^{ix}=\cos{x}+i\sin{x}...④}
が得られました。この式は非常に大切で、オイラーの公式と言われています。

ちなみに式④に x=\pi を代入すれば右辺は-1になり、これを移項すれば、
\LARGE{e^{i\pi}+1=0}
という、最も美しい公式が得られます。

さて、指数法則を使えば、複素数 z=x+iy に対して、e^z
e^z=e^{x+iy}=e^xe^{iy}=e^x(\cos{y}+i\sin{y})
と定義します。これで複素指数関数を定義できました。ちなみに、③のxをzに変えただけの、
\displaystyle e^z=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{z^{n}}{n!}=1+\frac{z}{1!}+\frac{z^2}{2!}+\frac{z^3}{3!}+\dots
が成り立ちます。この式を定義とすることもあります。

さて、ここからはオイラーの公式
e^{ix}=\cos{x}+i\sin{x}...④
を使っていきます。
xを-xに置き換えると、ixは-ixに代わり、
e^{-ix}=\cos{(-x)}+i\sin{(-x)}=\cos{x}-i\sin{x}...⑤
となります。ここで④+⑤を計算すると、
e^{ix}+e^{-ix}=2\cos{x}\\\displaystyle\cos{x}=\frac{e^{ix}+e^{-ix}}{2}
が得られ、④-⑤を計算すると、
e^{ix}-e^{-ix}=2i\sin{x}\\\displaystyle\sin{x}=\frac{e^{ix}-e^{-ix}}{2i}
が得られました。sin,cosがeの指数関数で表すことができました。xをそのままzに置き換えて、

\displaystyle\cos{z}=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2}\\\displaystyle\sin{z}=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}
これを複素数における三角関数の定義とします。

長い準備が終わりました。ここからです。

 

 

cosz=2を解く

ではcosの定義の式から方程式を解きます。

\displaystyle\cos{z}=2\\\displaystyle\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2}=2\\e^{iz}+e^{-iz}=4 
ここで、X=e^{iz} と置きます。\displaystyle e^{-iz}=(e^{iz})^{-1}=X^{-1} であることに注意して、
\displaystyle\\X+X^{-1}=4\\X^2+1=4X\\X^2-4X+1=0\\X=2\pm\sqrt{3}
これにて、
e^{iz}=2\pm\sqrt{3}
が得られました。ここで両辺のlogをとればいいのですが、一つだけ注意がありあす。

複素対数関数の定義

さっと結果のみを書きます。

zを複素数、rをその絶対値、θを偏角とすると、

\log{z}=\log{r}+i(\theta+2n\pi)\ (nは整数)

複素数のlogでは、複素数偏角(+2nπ)にiをかけた項があります。
今回は2\pm\sqrt{3}偏角は0なので、
e^{iz}=2\pm\sqrt{3}
の両辺のlogをとって、
iz=\log{(2\pm\sqrt{3})}+2n\pi i\\\underline{z=-i\log{(2\pm\sqrt{3})}+2n\pi}

はい、これで解けました。

\cos{z}=2 を満たす複素数z は、
z=-i\log{(2\pm\sqrt{3})}+2n\pi

 

ちなみに同じような問題がさまざまな大学院の過去問に出題されたりしています。

 

補足

複素対数関数のi(θ+2nπ)という項について。オイラーの公式
{e^{ix}=\cos{x}+i\sin{x}}
に、x=2nπを代入すると、
e^{i2n\pi}=\cos{2n\pi}+i\sin{2n\pi}=1
となります。なので、
e^{i(z+2n\pi)}=e^{iz}e^{i2n\pi}=e^{iz}
となって、指数関数は虚部に関して周期2πをもつのです。なので対数をとったとき、i(θ+2nπ)という項があるのです。

ちなみに、今回の内容は大学2,3年で習う「複素関数論」という単元に当てはまります。最後におさらい。

 

今回登場した関数

複素三角関数

\displaystyle\sin{z}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n+1)!}z^{2n+1}=z-\frac{z^3}{3!}+\frac{z^5}{5!}-\frac{z^7}{7!}+\dots
\displaystyle\cos{z}=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(-1)^n}{(2n)!}z^{2n}=1-\frac{z^2}{2!}+\frac{z^4}{4!}-\frac{z^6}{6!}+\dots

複素指数関数
\displaystyle e^{iz}=\cos{z}+i\sin{z}

複素指数関数による複素三角関数の書き換え
\displaystyle\sin{z}=\frac{e^{iz}-e^{-iz}}{2i}
\displaystyle\cos{z}=\frac{e^{iz}+e^{-iz}}{2}

複素対数関数
\log{z}=\log{r}+i(\theta+2n\pi)

 

これらの関数は非常によく使うもので、例えば、この複素関数を利用することで、ディリクレ積分
\displaystyle\int_{0}^{\infty}\frac{\sin{x}}{x}dx=\frac{\pi}{2}
という実関数の積分が求められます。この関数は高校までの範囲では積分できません。複素関数の理論を少し勉強すると、このような実関数の積分を、直接積分を実行せずに求められます

\displaystyle\int_{0}^{\infty}\frac{1}{x^3+1}dx=\frac{2}{3\sqrt{3}}\pi
\displaystyle\int_{0}^{\infty}\frac{1}{x^4+1}dx=\frac{\sqrt{2}}{4}\pi
\displaystyle\int_{0}^{\infty}\frac{\cos{bx}}{x^2+a^2}dx=\frac{\pi}{2a}e^{-ab}\ (a,\ b>0)

などなど。特に最後の積分は高校数学ではむりでしょう。

 

 

 

 written by k

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