【数学小話】続 3:4:5の直角三角形の鋭角は何度?
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前回
今回は高校生向けです。春休みに早く突入して暇を持て余す高校生は、ぜひ式を一つ一つ追いながらチャレンジしてみてください。
前回は3:4:5の直角三角形の鋭角が(無理数)度であることを示しました。方針としては、(有理数)度であると仮定して背理法で示しました。その証明はおおまかに以下の通りです。
このように鋭角をθと置きます。
「θが(有理数)度」=「θは(有理数)×πラジアン」
であることから、
と書けたと仮定します。すると、
となるはずです。qπは(整数)×πなので、cosが±1になるわけです。
しかし、cosθ=3/5にcosの加法定理を繰り返し用いるなどすれば、実際にcos(pθ)の値は求まります。実際に考えるとそれが±1にならないことが分かるので矛盾になります。
そして、次の課題として、「他の整数比直角三角形の鋭角も(無理数)度となるのか?」というものが考えられます。今回はこれについて考えていきます。そこそこ長丁場となります。
考察の方針
整数比直角三角形の鋭角をθと置くと、cosθの値は1より小さい有理数となります。例えば、5:12:13の直角三角形の鋭角をθとすれば、cosθは12/13または5/13です。このθが(有理数)×πラジアンであるかどうかを考えるのが今回の疑問です。そこで、少し話を広げて、
cosθが有理数で、かつθが(有理数)×πラジアンであるのはどのような時か
という問題を考えてみます。まずすぐに分かるのが、cosθが有理数になるθ=(有理数)×πとして、
θ=0,π,π\2、π\3
と、これらの整数倍があります。他にないのか?ということを調べます。
と書け、このとき
となります。つまり、θが(有理数)×πラジアンなら、そのcosの何倍角かが必ず±1となります。
ちなみに、と書けます。
さて、cosの加法定理を繰り返し用いることで、すべての自然数nに対し、cosnθはcosθの多項式で書けます。そこで、cosnθ=±1となるようなcosθの値で有理数であるものを調べます。まずはn=2,3,...でやってみます。
具体的な考察
以後、 とします。
を考えます。
θの方程式と見ると解は
また、
これで、 のときといえます。
を考えます。
θの方程式と見ると解は
また、
の解は
の解は
これで、 のときといえます。
を考えます。
θの方程式と見ると解は、
また、
の実数解は
の実数解は
これで、 のとき
といえます。
は、加法定理を繰り返すことで得られます。過程は省略します。
ここまでを眺めてみると、θが有理数でcosθも有理数となるものは、cosθ=0,±1,±1/2となる場合くらいしかないように思えてきます。
実は、θが有理数でcosθも有理数となるものはこの場合に限られます。
このことを示すために、ここまでを一般化して以下を考えます。
・cosnθを変形してcosθのn次多項式に書きかえる。cosθをxに置き換え、xのn次多項式にする。
・「xのn次多項式=±1」という2つの方程式の有理数解(ただしx=cosθと置いたので絶対値が1以下の有理数解)としてありえるものを全て調べる。
・絶対値が1以下の有理数解が0,±1,±1/2しかないことを確かめる。
チェビシェフ多項式
ここでは、第一種チェビシェフ多項式と呼ばれているものを使います。非負整数nに対しチェビシェフ多項式 とは、cosnθをcosθの多項式で表したときに、cosθをxに置き換えて得られたものです。つまり、
となりますから、
となります。 ちなみにこれより先は、
となっています。cosnθをcosθの多項式で表したときに、cosθをxに置き換えて得られたものだから、
です。
漸化式
三角関数の和積の公式に、
というものがあります。ここでA=n+2、B=nを代入して
移項して、
となるので、次の漸化式が得られます。
さて、
これを見ると、 は次多項式で、の係数はとなっているので、2倍して係数をにします。
するとここで と置くと、 の多項式に書きかえられます。
これは全ての について成り立ちます。このことは漸化式の形からただちに導かれます。
これからは の多項式として見るので、便宜的に、 と置きましょう。つまり、
となります。この の係数を見ると、
・最高次の項の係数が1である
・nが偶数のとき、定数項は2と-2が交互に現れる
・nが奇数のとき、定数項は0で、1次の項の係数が1,-3,5,-7,...となる
ということが成り立っています。これらも漸化式から導かれます。この最高次数の項、定数項および1次の項が分かることが重要です。
有理数解を探す
さて、突然ですがこのような事実があります。
有理根定理
整数係数方程式
(ただし はともに0でない)
の有理数解が存在するならば、必ず
という形をする。
(以下の3つの例は、その行をクリックまたはタップすると詳細が表示されます)
では、
という方程式、つまり
という整数係数方程式の有理数解が存在するとしたらそれはいくつなのかを考えます。右辺を移項して、
とします。今、なので、定数項 は0,±2,±4のいずれかになります。
(ⅰ) 定数項 が0でないとき
有理数解が存在するとしたらそれは
に限られます。 だったので、絶対値が2より大きい±4は除いて、
に限られることが分かります。
(ⅱ) 定数項 が0のとき
これはnが奇数の場合です。
定数項に着目すると、一般にこう書けます。
これが0になる有理数解が存在するとしたらそれは
ここで、1,3,5,7,...といった奇数の約数のうち絶対値が2以下であるものは1しかないので、
に限られることが分かります。
(ⅰ),(ⅱ)をまとめると、
が成り立つような で有理数となるものは
に限られる、ということが分かりました。
結論
すぐ上で分かったことは、
が成り立つような で有理数となるものは
に限られる。…①
ということです。これの対偶をとれば、
が のいずれでもない有理数のとき、
である。
となります。cosθの何倍角も決して±1とならないのであれば、θは(有理数)×πラジアンではありません。つまり、
が のいずれでもない有理数のとき、θは(無理数)×πラジアンである…②
となります。ちょっと論理が難しいですね。ゆっくり一つ一つの主張を追って理解してみてください。
ということで、
整数比直角三角形の鋭角をθとすると、cosθは0,±1,±1/2のいずれでもない有理数になるので、②より、θは(無理数)×πラジアンです。
θが(無理数)×πラジアンなら(無理数)度なので、
これで、
すべての整数比直角三角形の鋭角が無理数度である
ことが示せました。
また、①を言い換えると、
となるものに限られる
という結果も得られました。
感想
正直かなりハイレベルな内容になっていると思います。一つ一つを丁寧に見てみると高校2年生でも理解できるのですが…
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written by k