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【数学小話】続 3:4:5の直角三角形の鋭角は何度?

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前回

【数学小話】3:4:5の直角三角形の鋭角は何度?

 

今回は高校生向けです。春休みに早く突入して暇を持て余す高校生は、ぜひ式を一つ一つ追いながらチャレンジしてみてください。

前回は3:4:5の直角三角形の鋭角が(無理数)度であることを示しました。方針としては、(有理数)度であると仮定して背理法で示しました。その証明はおおまかに以下の通りです。

f:id:hby:20191216124528j:plain

このように鋭角をθと置きます。
「θが(有理数)度」=「θは(有理数)×πラジアン
であることから、
\theta=\frac{q}{p}\pi\ (p,\ qは互いに素な整数)
と書けたと仮定します。すると、
\cos{(p\theta)}=\cos{(p\times\frac{q}{p}\pi)}=\cos{(q\pi)}=\pm1
となるはずです。qπは(整数)×πなので、cosが±1になるわけです。
しかし、cosθ=3/5にcosの加法定理を繰り返し用いるなどすれば、実際にcos(pθ)の値は求まります。実際に考えるとそれが±1にならないことが分かるので矛盾になります。

 

 そして、次の課題として、「他の整数比直角三角形の鋭角も(無理数)度となるのか?」というものが考えられます。今回はこれについて考えていきます。そこそこ長丁場となります。

 

 

考察の方針

整数比直角三角形の鋭角をθと置くと、cosθの値は1より小さい有理数となります。例えば、5:12:13の直角三角形の鋭角をθとすれば、cosθは12/13または5/13です。このθが(有理数)×πラジアンであるかどうかを考えるのが今回の疑問です。そこで、少し話を広げて、
cosθが有理数で、かつθが(有理数)×πラジアンであるのはどのような時か
という問題を考えてみます。まずすぐに分かるのが、cosθが有理数になるθ=(有理数)×πとして、
θ=0,π,π\2、π\3
と、これらの整数倍があります。他にないのか?ということを調べます。

θが(有理数)×πラジアンであるとき、

\theta=\frac{q}{p}\pi\ (p,\ qは互いに素な整数)

と書け、このとき

\cos{(p\theta)}=\cos{(p\times\frac{q}{p}\pi)}=\cos{(q\pi)}=\pm1

となります。つまり、θが(有理数)×πラジアンなら、そのcosの何倍角かが必ず±1となります。
ちなみに、\cos{(q\pi)}=(-1)^qと書けます。

さて、cosの加法定理を繰り返し用いることで、すべての自然数nに対し、cosnθはcosθの多項式で書けます。そこで、cosnθ=±1となるようなcosθの値で有理数であるものを調べます。まずはn=2,3,...でやってみます。

 

具体的な考察

以後、x=\cos\theta とします。

\cos2\theta=\pm1 を考えます。
θの方程式と見ると解は\theta=\frac{n\pi}{2}\ (nは整数)
また、
\cos2\theta\\=\cos^2{\theta}-1\\=2x^2-1=\pm1\\x^2=0,1\\x=0,\pm1
これで、\theta=\frac{n\pi}{2} のとき\cos\theta=0,\pm1といえます。

 

\cos3\theta=\pm1 を考えます。
θの方程式と見ると解は\theta=\frac{n\pi}{3}\ (nは整数)
また、
\cos3\theta=4\cos^3{\theta}-3\cos{theta}\\=4x^3-3x=\pm1

4x^3-3x=1 の解はx=1,-\frac{1}{2}
4x^3-3x=-1 の解はx=-1,\frac{1}{2}
これで、\theta=\frac{n\pi}{3} のとき\cos\theta=\pm1,\pm\frac{1}{2}といえます。

 

\cos5\theta=\pm1 を考えます。
θの方程式と見ると解は、\theta=\frac{n\pi}{5}\ (nは整数)
また、
\cos5\theta=16x^5-20x^3+5x=\pm1

16x^5-20x^3+5x=1 の実数解はx=1,\dfrac{-1\pm\sqrt{5}}{4}
16x^5-20x^3+5x=-1 の実数解はx=-1,\dfrac{1\pm\sqrt{5}}{4}
これで、\theta=\frac{n\pi}{5} のとき
\cos\theta=\pm1,\dfrac{1\pm\sqrt{5}}{4},\dfrac{-1\pm\sqrt{5}}{4}

といえます。

 

\cos5\theta=16\cos^5\theta-20\cos^3\theta+5\cos\theta

は、加法定理を繰り返すことで得られます。過程は省略します。

ここまでを眺めてみると、θが有理数でcosθも有理数となるものは、cosθ=0,±1,±1/2となる場合くらいしかないように思えてきます。
実は、θが有理数でcosθも有理数となるものはこの場合に限られます。
このことを示すために、ここまでを一般化して以下を考えます。

・cosnθを変形してcosθのn次多項式に書きかえる。cosθをxに置き換え、xのn次多項式にする。
・「xのn次多項式=±1」という2つの方程式の有理数解(ただしx=cosθと置いたので絶対値が1以下の有理数解)としてありえるものを全て調べる。
・絶対値が1以下の有理数解が0,±1,±1/2しかないことを確かめる。 

 

チェビシェフ多項式

ここでは、第一種チェビシェフ多項式と呼ばれているものを使います。非負整数nに対しチェビシェフ多項式T_n(x) とは、cosnθをcosθの多項式で表したときに、cosθをxに置き換えて得られたものです。つまり、

\cos{0\theta}=1\\\cos{1\theta}=\cos{\theta}\\\cos{2\theta}=2\cos^2{\theta}-1\\\cos{3\theta}=4\cos^3{\theta}-3\cos{\theta}\\\dots

となりますから、

T_0(x)=1\\T_1(x)=x\\T_2(x)=2x^2-1\\T_3(x)=4x^3-3x\\\dots

となります。 ちなみにこれより先は、

T_4(x)=8x^4-8x^2+1\\T_5(x)=16x^5-20x^3+5x\\T_6(x)=32x^6-48x^4+18x^2-1\\T_7(x)=64x^7-112x^5+56x^3-7x\\T_8(x)=128x^8-256x^6+160x^4-32x^2+1\\\dots

となっています。cosnθをcosθの多項式で表したときに、cosθをxに置き換えて得られたものだから、
\cos{n\theta}=T_n(x)
です。

漸化式

三角関数の和積の公式に、

\cos{A}+\cos{B}=2\cos{\dfrac{A+B}{2}}\cos{\dfrac{A-B}{2}}

というものがあります。ここでA=n+2、B=nを代入して

\cos{(n+2)\theta}+\cos{n\theta}=2\cos{(n+1)\theta}\cos{\theta}

移項して、

\cos{(n+2)\theta}=2\cos{\theta}\cos{(n+1)\theta}-\cos{n\theta}

となるので、次の漸化式が得られます。
T_{n+2}(x)=2xT_{n+1}(x)-T_{n}(x)

さて、

T_0(x)=1\\T_1(x)=x\\T_2(x)=2x^2-1\\T_3(x)=4x^3-3x\\T_4(x)=8x^4-8x^2+1\\T_5(x)=16x^5-20x^3+5x\\\dots

これを見ると、T_n(x)n多項式で、x^nの係数は2^{n-1}となっているので、2倍して係数を2^nにします。

2T_0(x)=2\\2T_1(x)=2x\\2T_2(x)=4x^2-2\\2T_3(x)=8x^3-6x\\2T_4(x)=16x^4-16x^2+2\\2T_5(x)=32x^5-40x^3+10x\\\dots

するとここでy=2x と置くと、y多項式に書きかえられます。

2T_0(x)=2\\2T_1(x)=2x=y\\2T_2(x)=(2x)^2-2=y^2-2\\2T_3(x)=(2x)^3-3(2x)=y^3-3y\\2T_4(x)=(2x)^4-4(2x)^2+2=y^4-4y^2+2\\2T_5(x)=(2x)^5-5(2x)^3+5(2x)=y^5-5y^3+5y\\\dots

これは全てのn について成り立ちます。このことは漸化式の形からただちに導かれます。

これからはy多項式として見るので、便宜的に、S_n(y)=2T_n(x) と置きましょう。つまり、

S_0(y)=2\\S_1(y)=y\\S_2(y)=y^2-2\\S_3(y)=y^3-3y\\S_4(y)=y^4-4y^2+2\\S_5(y)=y^5-5y^3+5y\\S_6(y)=y^6-6y^4+9^2-2\\S_7(y)=y^7-7y^5+14y^3-7y\\\dots

となります。このS_n(y) の係数を見ると、
・最高次の項の係数が1である
・nが偶数のとき、定数項は2と-2が交互に現れる
・nが奇数のとき、定数項は0で、1次の項の係数が1,-3,5,-7,...となる
ということが成り立っています。これらも漸化式から導かれます。この最高次数の項、定数項および1次の項が分かることが重要です。

有理数解を探す

さて、突然ですがこのような事実があります。

有理根定理

整数係数方程式
a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\dots+a_1x+a_0=0
(ただしa_n,a_0 はともに0でない)
有理数解が存在するならば、必ず
\pm\dfrac{a_0の約数}{a_nの約数}
という形をする。

 

 

(以下の3つの例は、その行をクリックまたはタップすると詳細が表示されます)

 

例① 2x^3-x^2-2x+1=0有理数

2x^3-x^2-2x+1=0有理数解があるならば、
\pm\dfrac{1の約数}{2の約数}\ =\pm1,\pm\frac{1}{2}
のいずれかに限られる。実際、
2x^3-x^2-2x+1\\=(x+1)(x-1)(2x-1)
因数分解できるので、有理数解はx=\pm1,\frac{1}{2}である。

例② 3x^3-1=0有理数 3x^3-1=0有理数解があるならば、
\pm\dfrac{1の約数}{3の約数}\ =\pm1,\pm\frac{1}{3}
のいずれかに限られるが、今回はこのどれも解ではない。それは3x^2-1x=\pm1,\pm\frac{1}{3} のどれを代入しても0にならないからである。
例③ 2x^4+3x^3-8x^2+3x=0有理数

2x^4+3x^3-8x^2+3x=0有理数解の候補を絞り込みたいが、多項式
2x^4+3x^3-8x^2+3x=0 の定数項は0であるため、上の定理が使えない。しかしx で括って、
2x^4+3x^3-8x^2+3x\\=x(2x^3+3x^2-8x+3)
とでき、括弧の中の多項式に適用することで、有理数解があるならば、
x=0またはx=\pm1,\pm3,\pm\frac{1}{2},\pm\frac{3}{2}
のいずれかに限られる。実際、
2x^4+3x^3-8x^2+3x\\=x(x-1)(x+3)(2x-1)
因数分解できるので、有理数解はx=0,1,-3,\frac{1}{2}である。

 

 

 

 

では、
2\cos{n\theta}=\pm2
という方程式、つまり

y^n+a_{n-1}y^{n-1}+\dots+a_1y+a_0=\pm2\\(ただしa_0は0または\pm2)

という整数係数方程式の有理数解が存在するとしたらそれはいくつなのかを考えます。右辺を移項して、

y^n+a_{n-1}y^{n-1}+\dots+a_1y+a_0\mp2=0\\(ただしa_0は0または\pm2)

とします。今、a_0=\pm2なので、定数項a_0\mp2 は0,±2,±4のいずれかになります。

(ⅰ) 定数項a_0\mp2 が0でないとき

有理数解が存在するとしたらそれは

y=\pm\dfrac{(a_0\mp2)の約数}{1}=\pm1,\pm2,\pm4

に限られます。 y=2x=2\cos{\theta} だったので、絶対値が2より大きい±4は除いて、

2\cos{\theta}=0,\pm1,\pm2\\\cos{\theta}=\pm1,\pm\frac{1}{2}

に限られることが分かります。

(ⅱ) 定数項a_0\mp2 が0のとき

これはnが奇数の場合です。

S_1(y)=y\\S_3(y)=y^3-3y\\S_5(y)=y^5-5y^3+5y\\S_7(y)=y^7-7y^5+14y^3-7y\\\dots

定数項に着目すると、一般にこう書けます。
S_{2m+1}(y)=y^{2m+1}+\dots+(-1)^m(2m+1)y\\=y\{y^{2m}+\dots+(-1)^m(2m+1)\}

これが0になる有理数解が存在するとしたらそれは
y=0またはy=\pm\dfrac{(2m+1)の約数}{1}
ここで、1,3,5,7,...といった奇数の約数のうち絶対値が2以下であるものは1しかないので、
2\cos{\theta}=0,\pm1\\\cos{\theta}=0,\pm\frac{1}{2}
に限られることが分かります。

 

(ⅰ),(ⅱ)をまとめると、
2\cos{n\theta}=\pm2
が成り立つような\cos{\theta}有理数となるものは
\cos{\theta}=0,\pm1,\pm\frac{1}{2}
に限られる、ということが分かりました。

 

結論

すぐ上で分かったことは、

\cos{n\theta}=\pm1
が成り立つような\cos{\theta}有理数となるものは

\cos{\theta}=0,\pm1,\pm\frac{1}{2}
に限られる。…①

ということです。これの対偶をとれば、

\cos{\theta}0,\pm1,\pm\frac{1}{2}いずれでもない有理数のとき、

\cos{n\theta}\neq\pm1\ (n=1,2,\dots)


である。

となります。cosθの何倍角も決して±1とならないのであれば、θは(有理数)×πラジアンではありません。つまり、
\cos{\theta}0,\pm1,\pm\frac{1}{2}いずれでもない有理数のとき、θは(無理数)×πラジアンである…②

となります。ちょっと論理が難しいですね。ゆっくり一つ一つの主張を追って理解してみてください。

ということで、
整数比直角三角形の鋭角をθとすると、cosθは0,±1,±1/2のいずれでもない有理数になるので、②より、θは(無理数)×πラジアンです。
θが(無理数)×πラジアンなら(無理数)度なので、
これで、
すべての整数比直角三角形の鋭角が無理数度である
ことが示せました。

 

また、①を言い換えると、

θが(有理数)×πラジアンでcosθが有理数となるのは、

\cos{\theta}=0,\pm1,\pm\frac{1}{2}


となるものに限られる
という結果も得られました。

 

感想

正直かなりハイレベルな内容になっていると思います。一つ一つを丁寧に見てみると高校2年生でも理解できるのですが…

前回

3:4:5の直角三角形の鋭角は何度?

 

 

 

written by k

 

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