【数学小話】病的な数学③ 1回しか微分出来ない関数
数Ⅱで初めて微分を習い、数Ⅲでより深く微分を習います。高校数学で見る微分可能な関数は、基本的に何回でも微分できます。
しかし、登場しないだけであって、高校数学の範囲内でも、1回微分可能だが2回微分不可能な関数は作れます。一般に、n回微分可能だがn+1回微分不可能な関数が作れます。
今回は数IIIの最初の方で習う単元と深く関係しています。
最初は微分、連続、微分可能という定義の確認から始まります。面倒なら飛ばしてください。
だいたい何回でも微分できる
高校までに登場するほとんどの微分できる関数は何回でも微分できます。(大学以降では、このことを級であるとか、滑らかであるとか言います)
・二次関数
・n次関数
・三角関数
・対数関数
・指数関数
n次多項式ならn+1回微分すると0になり、以後ずっと0が続きます。また、これらの関数を定数倍したり、関数同士を足したりかけたりしたものも、無限回微分可能です。
導関数、微分可能性(数Ⅱ、Ⅲ)
導関数の定義(数Ⅱ)
関数 に対して、
で定義される関数 を、 の導関数という。
関数の導関数を求めることを微分するとか言いますね。この極限の式をどう解釈、理解するかはここでは触れません。
関数の連続性(数Ⅲ)
実数aに対し、関数 がx=aで連続であるとは、
が成り立つときをいう。
関数 が全ての実数aで連続であるとき、単に は連続であるという。
要するに関数が連続であるとは、グラフを書いたときにひとつながりの線になる、という意味です。連続でない関数は、例えばこのようなものです。
他にも、中学生の時に関数という単元で、荷物を運ぶ料金を表すグラフがどうたら、というので見たのではないでしょうか。
微分可能性(数Ⅲ)
実数aに対し、関数 がx=aで微分可能であるとは、
が存在するときをいう。
関数 が全ての実数aで微分可能であるとき、単に は微分可能であるという。
一般に、関数が必ず微分できるとは限りません。ここで述べたように、極限が一つに定まらなければなりません。ここではhを0に限りなく近づけるわけですが、hを正から0に近づけても負から0に近づけても同じ値にならなければなりません。
について、xを0に近づける時、正から0に近づけると+∞になり、負から0に近づけると-∞になります。このように、極限はどんな時も一つに定まるわけではないのです。
1回しか微分できない関数
目的の1回しか微分できない関数を紹介しましょう。そこまで難しくありません。これです。
グラフで書くとこれです。まずはこれが1回微分できることを確かめてみます。
のとき、
のとき、
なので、以外で微分できるのは明らか。で微分可能であることを調べる。そのためには、極限
がhを正から近づけても負から近づけても一つに定まらなければならない。 正から近づけるとき、
負から近づけるとき、
よって、極限が一致するので、
となり、でも微分可能である。
でした。と書くこともできますね。
当然、この関数は原点で折れ曲がっているので、(x=0において)微分不可能です。
ということで、この関数は、x=0において1回だけ微分できる関数でした。(他の全てのxでは何回でも微分できる)
このように、1回だけ微分できる関数は、場合分けを使い、場合分けの境界においてもうまく微分できるようにうまく調整したものが挙げられます。
ずるい作り方
1回だけ微分できる関数として、
を紹介しましたが、自分でもこういう例を作りたい!とお思いの皆様へ、ずるい方法(?)を紹介します。それは、
です。(積分して作った関数が連続になるように積分定数をうまくとる必要があるかもしれませんが)
において微分不可能な関数
を積分すれば、
になります。これを1回微分するとに戻りますよね。ですから1回だけ微分できる。
もうお気づきかもしれませんが、もう一回積分すれば、2回だけ微分できる関数が得られます。繰り返せば、n回だけ微分できる関数が作れます。
ただ、欠点として、変な関数を用意するとうまく積分出来ないかもしれません。一般に、微分することよりも、不定積分を求めることの方がよっぽど難しいです。例えば、
の不定積分は初等関数(大まかに言うと高校までで習う関数)の組み合わせで表すことが出来ないことが知られています。
written by k
【数学小話】病的な数学② 歴史的に有名な反例
歴史的に有名な反例をいくつか見てみましょう。
素数を作る式
素数というのはやはり数学においてとても重要で、大昔からあまたの数学者が素数の現れる法則を解き明かそうとしてきました。(当然、まだ分かっていません)
フェルマー数という、数学者フェルマーが考えた次のようなものがあります。
これが全ての0以上の整数nについて、フェルマー数は素数ではないか?とフェルマーは予想しました。
n=0のとき、3
n=1のとき、5
n=2のとき、17
n=3のとき、257
n=4のとき、65537
確かに、この5つは全て素数です。
しかしこの予想は成り立ちませんでした。n=5は素数ではありません。
n=5のとき、4294967297=641×6700417
素因数分解というのは出てくる素数が大きいものしかないと、とたんに困難になります。ちなみにこの反例を見つけたのはオイラーです。
反例が見つかったからこのフェルマー数は意味がないかというと、そうともなりません。では、nがどんな値のときに素数になるのか?などなど、より深い考察を招くきっかけとなるのです。
もう一つ。大天才レオンハルト・オイラーはこのような式を考えました。
この式にn=1から順に自然数を代入していくと、ことごとく素数が現れます。
n=1のとき、41
n=2のとき、43
n=3のとき、47
n=4のとき、53
n=5のとき、61
n=6のとき、71
n=7のとき、83
n=8のとき、97
…
n=40までやっても、素数しか現れません。当時のオイラーは素数を作る式を見つけた!と一瞬大喜びしたことでしょう。しかし、この式は完全なものではありませんでした。冷静になってみると分かるのですが、この式はn=41のとき、明らかに素数ではありません。こんな簡単な反例があると気づいたオイラーはさぞかし恥ずかしかったでしょう。
ちなみに、必ず素数が出てくる式も存在します。が、計算量が膨大であったり、一発で目的の値が出せなかったり、なかなか大きい数にならなかったりと、実用的ではありません。例えば、こんなものがあります。
マチャセビッチの多項式
ここに出てくる26種のアルファベットa~z全てに好きな整数を入れたとき、その値が正になるならば必ず素数になります。わあ、便利だ(大嘘)
ワイエルシュトラス関数
数IIIの最初で微分可能性がどうたら、という話をすると思います。大まかなイメージとして、「その点において微分不可能である」=「グラフがそこで折れ曲がっている(滑らかでない)」というものがあります。
例えば y=|x| は、x=0でグラフが折れ曲がっていて、x=0において微分可能ではありません。もちろん、0でない全てのxにおいて微分可能です。
このように、関数が微分できないと言ったら、(複数の)孤立点で微分できないだけで、他の部分では普通に微分できるものが考えられがちです。しかし、ワイエルシュトラスが考えたワイエルシュトラス関数は、至る所微分不可能です。
ワイエルシュトラス関数 はこのような式です。
ここでは正の奇数で、
を満たすものとします。グラフはこんな感じ。(画像はWikipediaより)
やたらめったらギザギザしたグラフになりました。この関数は至る所微分不可能な関数と言われていますが、どういう意味かというと、全てのxで微分不可能であるという意味です。どこでも微分出来ないのです。グラフをいくら拡大してみてもギザギザしていることがどこでも微分できないことを示唆しています。
この例は歴史的にとてもインパクトのあるものです。というのも、実1変数の関数は基本的に(いくつかの孤立点を除けば)微分可能なものしかないと思われていたからです。これが至る所微分不可能である証明は長いので省略します。
さて、この関数はなかなか奇妙ですよね。式自体を見ると、
ワイエルシュトラス関数は、滑らかで何回でも微分できる三角関数をたくさん足しているだけです。当然のこととして、何回でも微分できる関数同士を有限個足して得られる関数はやはり何回でも微分できます。しかし、このワイエルシュトラス関数のように無限個足すと、そうなるとは限らないのです。なかなか不思議ですね。
written by k
【数学小話】病的な数学①
数学を勉強するにあたり、反例を考えるということは非常に重要です。反例を見ることで、「できること」と「できないこと」、「成り立つ場合」と「成り立たない場合」の境界がよりはっきりし、より深い理解が得られます。
この病的な数学というシリーズで、面白い、ためになる(とは限らない?)反例を紹介していきます。
実は、数学で「病的な」という言葉はしばしば使われます。直感に反するような、一種の気持ち悪さを感じるような例に対してつけられる修飾語として用いられます。
初回は、簡単な例をいくつか見つつ、数学のセンスを磨くためのヒントを探ります。
数に対する感覚を磨く
数学が得意な人というのはある程度数に対する感覚が鋭いです。例えば、「この数とこの数を足したらこんな性質(〇で割り切れる、など)をもつ数になるだろう」ということが自然と分かったり、「計算途中でこんな数が出てくるのはおかしい。どこかで計算ミスをしているにちがいない」と気づける力は数学をするうえでとても重要です。ということで、簡単なところから。
① 偶数+偶数は常に偶数か?
② 3の倍数+3の倍数は常に3の倍数か?
③ nの倍数+nの倍数は常にnの倍数か?(nは2以上の整数とします)
はい、これらは全てYesですね。では、これはどうでしょうか?
④ nは2以上の整数とする。a+bがnの倍数であるとき、aもbも必ずnの倍数か?
これはNoです。適切に反例を提示できますか?もし困ったなら、n=3でやってみてください。
このように、「pであるとき、qである」というタイプの文章(高校数学では命題といい、「pならばq」とか「p⇒q」とか書かれます)があったとき、「qであるとき、pか」という逆を考えると、成り立つとは限りません。これは反例を考えるよい練習になります。
「合同な三角形は面積が等しい」ですが、「面積が等しい三角形は合同とは限らない」ですよね。
さて話を戻して、次はこんなことを考えてみましょう。
これはどちらもNoです。自信をもって答えられますか?「なんとなくこっちだろう」と予想するのもいいですが、きっちりと反例を見つけたうえでNoだと答えるのが理想です。
⑤たとえば、x=1+√2、y-2-√2など。もしこの反例を見て「1+√2は無理数なの?」と思った人は要注意。無理数の定義をしっかりと確認しましょう。「なるほど、その手があったか」と思った人は自分のものにして必要な場面でしっかりと出せるように。
⑥x=y=√2でいいですね。こっちの方が楽勝かも?
では次、少し難しくなります。
⑦ 二次方程式 の解の一つが という形で書けるものであるとき、もう一つの解は である。
これは、 が有理数ならYes、どれかに無理数が入っているとNoです。いや、問題文に が何か一切書いていないのがそもそも問題として欠陥なのですがね…Noとなる反例としては、
の解は です。
どうやって作ったかというと、解と係数の関係です。√2と√3が解になる二次方程式を作ろう、と考えればよいわけです。
反例を作るのに、知識をこんな風にうまく活かせる場合があるのですね。
ちなみにこの問題はこちらでより深く掘り下げています。Yesとなる場合の証明などはこちらをご覧ください。
違いをはっきりとさせる
反例を考えることで、違いを明確にすることができます。例えば、
「a=b, b=cのときa=c」は成り立ちますが、
「a≠b, b≠cのときc≠a」
はどうでしょうか?成り立ちません。a=cとなり得るからです。では「a,b,cはどれも違う数である」ということは式でどう書けばよいでしょうか?
三角形の合同条件3つは誰もが覚えさせられます。私は理由のないただの暗記は嫌いだったので、それぞれの合同条件をみながらいくつも具体的な図を描いて、「たしかにこれが成り立つときは合同になりそうだ」と確信しながら自然と身に着けました。その過程で、合同条件の一つに
「二組の辺とその間の角がそれぞれ等しい」
というものがありましたが、
「二組の辺とその間とは限らない一つの角がそれぞれ等しい」
ときは必ず合同にはならないのか、ということをチェックしました。さて、みなさんはどう思いますか?その間とは限らない角にすると合同にならない場合が出てくるのでしょうか?
ここではあえて図は書きません。ぜひ巧妙に反例を作ってみてください。
このように、与えられたものをただ鵜呑みにするのではなく、「なぜその言い回しをしないといけないのか」「なぜその条件が必要なのか」をしっかりと理解するのに、反例は役に立ちます。
一つ条件を除いてみて反例を作れば、「こんな場合が出てきてしまうからあの条件は必要だったんだな」と実感することができます。
ということで初回はここまで。次回からはもっと気持ち悪い例を紹介出来たらなと思います。
written by k