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【数学小話】この値は有限or無限?美しい級数の世界

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日常生活で、この足し算は無限になるか、有限の値に収まるか、気になる瞬間はたくさんありますよね。ということで、有限になるか、無限になるかのクイズを用意してみました。

 

 

 

級数クイズ

級数は簡単にいうと、「無限個の足し算」のことです。

 

問1. 調和級数

これは有限か無限か。

\displaystyle1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\dots

 

 

 

 

 

答1. 無限

これは有名な調和級数で、足されていく値は0に近づくのに、和は無限大に発散するものです。このように示すことができます。

\displaystyle\hspace{18px} 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\frac{1}{6}+\frac{1}{7}+\frac{1}{8}+\dots\\\displaystyle\hspace{0.8px}>1+\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{8}+\frac{1}{8}+\frac{1}{8}+\dots\\\displaystyle=1+\frac{1}{2}\quad\quad\hspace{1px}+\frac{1}{2}\quad\quad\quad\quad\quad\quad\hspace{5px}+\frac{1}{2}+\dots\\\displaystyle=\infty

このように調和級数を下から抑え、抑えたものが無限大になるので求めるものも無限大になります。

別の示し方として、積分を利用したものもあります。

f:id:hby:20190919155530j:plain

y=1/xのグラフと、面積が1 , 1/2 , 1/3 , 1/4 , ...の長方形を書きました。これを見れば、
\displaystyle 1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\dots+\frac{1}{n}>\int_{1}^{n}\frac{1}{x}dx
であり、
\displaystyle\int_{1}^{n}\frac{1}{x}dx=\bigg[ \log x\bigg]_{1}^{n}=\log n
であり、nを無限大に飛ばすとlogn→∞であることから示せます。

 

 

問2. 等比級数

これは有限か無限か。

\displaystyle\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{16}+\frac{1}{32}\dots

 

 

 

 

答2. 有限

この式は、足される値が次々と1/2倍されています。このように、足される数が次々r倍されているものを等比級数といいます。

実は、この式の値は1になることが知られています。高校では等比級数として計算することもできますが、ここでは小学生でも納得できる有名な図形を使った説明を見てみましょう。

f:id:hby:20190508224801j:plain

この図のように、1辺が1の正方形を半分に分けて1/2の長方形を作る。もう片方の1/2の長方形を半分に分けて1/4の正方形を作る。これを繰り返すと、面積が1の正方形は、面積が1/2, 1/4, 1/8, 1/16, 1/32, 1/64,...である、無限に多くの長方形に分けられます。これは
\displaystyle\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}+\frac{1}{16}+\frac{1}{32}\dots=1
を意味します。和はなんと1になります。
このように、正の数を無限に多く足しても、その値が無限大にならないこともあるのです。

 

問3. 交代級数

これは有限か無限か。

\displaystyle1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\frac{1}{4}+\frac{1}{5}-\dots

 

 

 

 

 

答3. 有限

これは項の正負が交互に入れ替わる、交代級数と言われているもので、この和はlog2になります。

 実は一般にこのようなことが言えます。(ライプニッツの定理)

交代級数 a_1-a_2+a_3-a_4+a_5-\dots

(ただし\ a_1\geqq0,\ a_2\geqq0,\ a_3\geqq0,\dots) は、

a_1\geqq a_2\geqq a_3\geqq\dots\rightarrow0

ならば収束する。(有限の値になる。)

他にも交代級数で有名なものとして、ライプニッツの公式があります。

\displaystyle1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\dots=\frac{\pi}{4}

こんなに簡単な式でなぜ円周率が出てくるのか、非常に不思議で魅力的だと思いませんか。

 

 

問4. バーゼル問題

これは有限か無限か。

\displaystyle1+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\frac{1}{5^2}+\dots

 

 

 

 

答4. 有限

問1で、
\displaystyle1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{4}+\frac{1}{5}+\frac{1}{6}+\dots=\infty
ということをやりましたが、分母を2乗したものは有限になります。不思議。

バーゼル問題とは、この「平方数の逆数全ての和はいくつか」という問題のことです。
ちなみに、和はこうなります。
\displaystyle1+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\frac{1}{5^2}+\dots=\frac{\pi^2}{6}
なんと、まったく関係なさそうなのに円周率の2乗がでてきました。さらに、

\displaystyle1+\frac{1}{2^4}+\frac{1}{3^4}+\frac{1}{4^4}+\frac{1}{5^4}+\dots=\frac{\pi^4}{90}

\displaystyle1+\frac{1}{2^6}+\frac{1}{3^6}+\frac{1}{4^6}+\frac{1}{5^6}+\dots=\frac{\pi^6}{945}

\displaystyle1+\frac{1}{2^8}+\frac{1}{3^8}+\frac{1}{4^8}+\frac{1}{5^8}+\dots=\frac{\pi^8}{69540}

となっています。非常に神秘的。

 

 

 

問5. 数列の逆数の和

これは有限か無限か。

(1) \displaystyle\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\frac{1}{7}+\frac{1}{11}+\dots
(素数の逆数の和)

(2) \displaystyle\frac{1}{1}+\frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\frac{1}{8}+\frac{1}{13}+\frac{1}{21}+\dots
(フィボナッチ数列の逆数の和)

 

 

 

 

答5. (1) 無限 (2) 有限

(1) 素数の逆数の和は無限大に発散します。(証明は難しい)

(2) ある無理数に収束します。知られている無理数である、\pi,e などで表すことができない値で、
\psi=3.3598856662431775531\dots
ギリシャ文字のψ(ぷさい、ぷしー)で書かれることがあります。

 逆数の和は、式がシンプルでも結果が複雑怪奇ということで非常に面白いです。

 

もう疲れたのでクイズ形式にはしませんが、他にも、

\displaystyle1+\frac{1}{1!}+\frac{1}{2!}+\frac{1}{3!}+\frac{1}{4!}+\dots=e
\displaystyle\frac{1}{1}+\frac{1}{1+2}+\frac{1}{1+2+3}+\frac{1}{1+2+3+4}+\frac{1}{1+2+3+4+5}+\dots=2

なんてものもあります。美しい。

 

式をすっきりさせる記号Σ

ここまでに登場した式を、Σ(しぐま)で書き換えたものも書いておきます。

\displaystyle1+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\dots=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n}=\infty
\displaystyle\frac{1}{2}+\frac{1}{4}+\frac{1}{8}\dots=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{2^n}=1
\displaystyle1-\frac{1}{2}+\frac{1}{3}-\dots=\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\frac{1}{n}=\log2
\displaystyle1-\frac{1}{3}+\frac{1}{5}-\frac{1}{7}+\frac{1}{9}-\dots=\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n-1}\frac{1}{2n-1}=\frac{\pi}{4} 
\displaystyle1+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\dots=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}=\frac{\pi^2}{6}
\displaystyle\zeta(s)=1+\frac{1}{2^s}+\frac{1}{3^s}+\dots=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s}
\displaystyle\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\frac{1}{7}+\frac{1}{11}+\dots=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{p_k}=\infty\ \ (p_kはk番目の素数)
\displaystyle\frac{1}{1}+\frac{1}{1}+\frac{1}{2}+\frac{1}{3}+\frac{1}{5}+\frac{1}{8}+\dots=\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{F_k}=\psi=3.35988\dots\ \ (F_kはフィボナッチ数列の第k項)

非常にすっきりしました。交代級数の正負が交互に入れ替わる部分は(-1)^n をうまく使うのがミソ。

 

 

寄り道:ゼータ関数と解析接続

リーマンのゼータ関数というものは、このように定義された関数です。
\displaystyle\zeta(s)=\frac{1}{1^s}+\frac{1}{2^s}+\frac{1}{3^s}+\dots\ \ (sは実部が1より大きい複素数)
つまり、上で登場した、

\displaystyle1+\frac{1}{2^2}+\frac{1}{3^2}+\frac{1}{4^2}+\frac{1}{5^2}+\dots=\frac{\pi^2}{6}

\displaystyle1+\frac{1}{2^4}+\frac{1}{3^4}+\frac{1}{4^4}+\frac{1}{5^4}+\dots=\frac{\pi^4}{90}

\displaystyle1+\frac{1}{2^6}+\frac{1}{3^6}+\frac{1}{4^6}+\frac{1}{5^6}+\dots=\frac{\pi^6}{945}

\displaystyle1+\frac{1}{2^8}+\frac{1}{3^8}+\frac{1}{4^8}+\frac{1}{5^8}+\dots=\frac{\pi^8}{69540}

これらはそれぞれ\zeta(2),\ \zeta(4),\ \zeta(6),\ \zeta(8) にあたります。このゼータ関数整数論素数分布における重要な存在です。このゼータ関数に対して、解析接続というある操作を施すと、

\displaystyle1+2+3+\dots=-\frac{1}{12}

という式が作れます。(作れる、というだけであって、この式に意味はあるかというとありません。当然、この式は正しいわけではありません。)

 

解析接続は、簡単に言えば、ある関数に対して、その定義域外でも定義できるように、その関数を作り変える操作のことです。

ゼータ関数の定義域は Re(s)>1 ですが、解析接続を行うことで、s=-1も代入できるような関数に作り変えることができ、その作り変えた関数にs=-1を代入すると関数の値が-1/12になります。作り変えた関数にs=-1を代入して出た数字ですが、作り変える前の関数にs=-1を代入すると 1+2+3+...となるので、

\displaystyle1+2+3+\dots=-\frac{1}{12}

なる"等式"ができるのです。

 

 

written by k

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