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【数学小話】矛盾からなんでも導ける 論理学入門

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矛盾。もともとは中国の古典からきた故事成語です。

矛盾の元となったエピソードはこんな感じの内容です。

あるところに、矛(ほこ)と盾(たて)を売っている商人がいました。

商人は盾を自慢しながら言いました。「この盾は丈夫で、どんな鋭利な刃物でも貫きとおすことはない。」

商人は矛を自慢しながら言いました。「この矛は鋭利でどんな強固なものでも貫く。」

ある客が言いました。「その矛でその盾を突くとどうなる?」

商人は答えられませんでした。

「どんなものも貫かせない盾」と「どんなものも貫く矛」。決して両者は同時に存在しえません。

現在の私たちは、矛盾を「辻褄が合わないこと」といった意味で使います。しかし、数学における矛盾は、ほんの少しだけ違った意味で登場します。また、矛盾からはなんでも導くことができます。今回はこの2つのことを、中学生レベルでもわかるように説明してみます。

 

 


 

 

数学における矛盾

数学における矛盾は、「pかつpでない」と定義されます。高校レベルまでの数学であれば、「決して起こりえない2つのことが同時に起こる状況」程度の認識でよいでしょう。

例えば、先ほどの矛盾のエピソード。

「どんなものも貫かせない盾」と「どんなものも貫く矛」があり、この矛で盾をついたときどうなるか。

盾はどんなものも貫かせないらしいので、盾が勝ったとすれば、矛は「貫けなかった」ことになるので、矛の「どんなものも貫く」という性質と矛盾します。

矛はどんなものも貫くらしいので、矛が勝ったとすれば、盾は「貫かれた」ことになるので、盾の「どんなものも貫かせない」という性質と矛盾します。

要するに、「片方を認めるともう片方が成り立たない」というのが矛盾の特性です。

 

命題の真偽について

矛盾からなんでも導くというのは、もうすこし正確にいうと、「矛盾が正しいと認めると、そこからどんな(嘘八百な)内容も正しいと証明できてしまう」ということです。「矛盾が正しいと認めると」なので、証明された内容が本当に正しいことになるわけではないです。

 

どうしても必要なので、少しだけ高校の数学で登場する言葉について説明しておきます。

数学において正しいことを、そうでないことを、正しいかどうか判定される文章、条件は命題と言われます。

矛盾は、「pかつpでない」というものでした。例えば、「xは偶数かつxは偶数でない」というのは矛盾です。この文章の前半を認めるためにxとして偶数をもってくると、後半の「xは偶数でない」を満たしません。逆も同様です。片方が成り立つともう片方は成り立たないので矛盾です。

 

では、矛盾からなんでも導いてみます。そのためにいくつか準備をします。

まず、矛盾を認める、真とするというのは、「pかつpでない」という命題は真であること、すなわち「p」もで「pでない」もということ...①を確認します。

「AかつB」が真であればAは真で、Bも真です。同様に、(本来成り立たないはずだが)「pかつpでない」が真であればpは真でpでないも真となるのです。

 

次に、「pまたはq」という命題はp,q少なくとも片方が真であれば真になる...②ことを確認します。

命題①「日本の首都は東京 または アメリカの首都はロサンゼルス」

これは、前半部分が真なので、命題①自体は真となります。アメリカの首都はワシントンD.C.なので、後半は間違っていますが、それは全く問題ありません。前半があっているからこの命題は正しいのです。

 

最後に、「pまたはqは真」と「pでないは真」から「qは真」が成り立つ...③ことも確認します。

命題②「アメリカの首都はロサンゼルスかワシントンD.C.である」

命題③「アメリカの首都はロサンゼルスではない」

この②と③の命題は真です。この2つから「アメリカの首都はワシントンD.C.である」ということが導かれます。

 

ここまでで準備終わり。

 

 

矛盾からなんでも導く

ではいよいよ本番。矛盾から好きなことを導きます。

step1:「pかつpでない」が真とします。つまり、pも真だしpでないも真です。(①より。)

step2:好きな命題をqとします。

step3:「pまたはq」という命題は、pが真なので真です。(②より。)

step4:「pまたはqは真」と「pでないは真」から「qは真」となる。(③より。)

 

こうしてqは真であるという結論が導かれました。

矛盾を認めるということは、好きなタイミングで「pは真」と「pでないは真」が適用できる、ということになります。今回はstep3で「pは真」を使い、step4で「pでないは真」を使いました。

 

この4つのstepで、どんな内容も正しいと結論付けてしまえます

 

1=2 から 聖徳太子の妹は卑弥呼 を導く

「1=2 または 聖徳太子の妹は卑弥呼」は仮定の「1=2は真」より真。

また、(そもそも我々の常識として)「1=2でない」は真。

「『1=2 または 聖徳太子の妹は卑弥呼』は真」と「『1=2でない』は真」より聖徳太子の妹は卑弥呼」は真

 

1=2を認めるということは、1=2と1≠2の両方が真になるということで、これが矛盾になっています。

 

ということで、矛盾を正しいと認めるとどんなことも正しいと結論付けることができてしまうのでした。

数学の世界において、矛盾というのはこのように扱いに注意しないといけない存在ではありますが、うまく使いこなすことで協力な武器になります。例えば背理法背理法とは証明したいことがらAに対して「Aがまちがい」と仮定した結果、矛盾が生じたから「やっぱりAがまちがいとしたのは間違いだった。Aは正しい。」と結論付ける証明の方法です。高校以降の数学でよく登場するとても大切な証明方法の一つです。

 

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written by k

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