【数学小話】部分分数分解のあれこれ
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塾で中学受験をする小学生に算数を教えていると、公立中学生にとっても少々難しい内容がたびたび登場します。私が小学生の時は知りもしなかったようなことを今の小学生は叩き込まれているのを思うと、到底自分にはできないことだなと感心する一方、小さいころから(半ば強制的に)勉強漬けな状況にあることに対しなんとも言えない気持ちになります。
さて、今回はそんな中学受験に登場する内容のなかでも面白いテーマ、部分分数分解についてです。中学受験で登場する部分分数分解の問題のタイプから、高校、大学で使われる部分分数分解について説明しようと思います。
・中学受験における部分分数分解
を計算せよ。
中学受験の部分分数分解は、分母をよく見ると、連続した2つの数の掛け算になっているのが特徴です。
部分分数分解は、一つの分数を複数の分数の足し算、引き算で表すことです。今回の問題の解法を見てみましょう。
を計算すると、
つまり、
同様に計算すると、
であるから、
このように、最初と最後を残して間がきれいに消えるので、引き算1回だけで済むのが、このタイプの問題のお決まりのパターンです。
うまく隣り合った分数が消える仕組みが分かれば、分数がいくら増えようと簡単に解けるようになります。
実際の中学入試の問題は一度に6つ以上の分数が並んでいることがよくありますが、このように工夫することで引き算1回で済むようになっています。
少しレベルが上がった問題になると、分母が連続した2つの数でなくなることもあります。
を利用して、
を計算せよ。
ヒントがあるので、先ほどの問題と同じように解けるだろうと予想できます。実際、
が成り立っていることが実際に計算するなどして確かめられます。よって、
ここまでのことを踏まえて、次のようなことが言えます。
と部分分数分解できるのは、bとcの差とaが一致している時である 。
これは、実際に通分して計算する時を想像すると分かります。
より、c-b=aとなっている必要があるのです。
例
を計算せよ。
bとcの差とaが等しくない時はどうするかというと、
より、
同様に、
よって、
このように、式全体を一つのかっこでまとめられることがほとんどです。
中学受験の部分分数分解はこれらの知識があれば十分解けるでしょう。
・高校以降における部分分数分解
まず、公立中学校では部分分数分解をわざわざ取り上げて学習することはまずありません。しかし、早慶などの難関私立高校受験で部分分数分解の問題が出ることがあります。自分で参考書を買って勉強するか塾で教わるしかないのでしょう。
高校では、分数の分母に多項式が現れることもあり、このような部分分数分解が登場します。
高校以上では分子が1でないものや、分数と分数の足し算で表されるもの、3つ以上の分数の足し引きで表されるものもあります。いずれにせよ、分母を因数分解したときの因数を分母に持つ分数の足し引きとなっています。
高校では部分分数分解をするだけではなく、それを利用して数列の和を求めたり、それを利用して積分が計算できたりします。
高校2年の数Bという教科の数列という単元ではこのような形で登場します。
を求めよ。
の意味は、にk=1からk=nまでを代入したものを全て足したものを意味します。つまり、
これはシンプルにnの式で表すとどうなるか、という問題なのです。これはどう解くかというと、
となります。
数Ⅲ(理系の高校3年の範囲)で、積分の計算でこのように部分分数分解が使われます。
(Cは積分定数)
という公式を利用して、
などのように積分の計算をすることがあります。
・部分分数分解の応用
古代エジプト(BC2900年~BC300年ごろ)では、数学がかなり発展していて、ある分数を、複数の単位分数(分子が1である分数)の和で表す問題が盛んに扱われました。
例
このような高度な計算が何千年も前の人々がしていたことに驚きですね。これも部分分数分解の一つの姿です。
ちなみに、どんな既約分数もいくつかの相異なる単位分数の和で表されることが知られています。
また、任意の単位分数は好きな個数の相異なる単位分数の和で表すことができることも知られています。
例
・部分分数分解の手順
これを具体的に求める手順を示します。まず、基本事項として、
考える分数は
①(分子の次数)<(分母の次数) であるような分数
②分母はもとの分母の因数で作られる
であることに注意します。
①例えば、は分子の次数1、分母の次数2ですが、は分子も分母も次数が1です。後者のような分数はこのまま部分分数分解をすることはまずありません。
②今回は元の分数の分母が(x+1)(x-2)なので、分解先の分数の分母は(x+1)と(x-2)になります。そこで、
(a,bは定数)
という式を作ります。右辺を「通分」してまとめると、
とを比べることで、
この連立方程式を解くことでa=2,b=1となり、目的の式が得られます。慣れてくると、簡単な部分分数分解はこのような連立方程式をわざわざ考えなくてもできることが増えてきます。
もとの式がやや複雑な場合
①分解先の分数は必ず(分子の次数)<(分母の次数)となります。
②もとの分母がApBqであるなら、分解先の分母はA,A2,A3,...,Ap,B,B2,B3,...,Bqとなります。
この2つが基本となります。
元の分数の分子の次数が分母の次数より大きい時
このような、分子の次数が大きいときは、多項式の割り算をします。
であるから、
このようにして分数の分子の次数を分母の次数より小さくします。そうして調整した分数を部分分数分解することになります。
と、帯分数を作るのと同様なことを多項式の分数でもするのです。
多項式の割り算は高校1~2年生で習います。
今回はここまで。
written by k